「朝ごはんできたよ~!」というキッチンからの掛け声を合図に、M一家の1日ははじまります。
M邸のキッチンはご飯を食べたり、絵を描いて遊んだり、今日あった出来事を話したりする、そんな家族団欒の場所です。
愛着の湧く街で、「古さ」を慈しむ
Astier de Villatteの照明が足元をやさしく照らす玄関。一歩足を踏み入れると、LDKから賑やかな声が聞こえてきます。ここに暮らすM一家は、夫妻と長女(3歳)、長男(1歳)の4人家族。リノベーションしたのは去年の夏頃のことで、元々は「賃貸の方がライフステージに合せて住み替えていける」と考えるこ主人と、「 古い建物に住みたい、そのために内装を自分たちに合った空間にリノベしたい」という中古マンション購入+リノベ派の奥様で考え方が分かれていたと言います。しかし、そんなお2人に共通していたのが「今の家は、とにかく落ち着かない!」ということでした。ご主人の転勤で関西から東京へ住処を移し、職場近くにマンシ ョンを借りたM一家。「設備がかなり整っていて便利な家でしたが、その代わりどこか面白くないと感じるようになって」とご主人。そんな経緯から約4ヶ月で引越しを検討し、「次に住む家は自分たちらしい家が良い」と、賃貸派だったご主人も空間を自由に創ることの出来るリノベに賛成してくれたと言います。
それから、リノベについて書かれた本で知ったnuリノベーション(以下nu)に問合せ、仲介アドバイザーと物件探しを開始。最終的に清澄白河で築32年のマンションを購入します。「休日は色々な街を見て歩きました 。清澄は現代美術館やカフェもあって良い所だなって」とご主人。「マンションの敷地内にある樹木が貫禄があってすごく素敵で、購入の決め手になったと言っても過言ではありません。古いものにはそういう貫禄とか味わいとか、年月を経ることでしか醸し出せない雰囲気があって、経年が偽りなく現れているその姿が好きなんです。古い家に住みたかったのも同じ理由です」と奥様。実はM夫妻、内見時からこのマンションがとても気に入っていたのですが、申込みを決断した時にはすでに人手に渡ってしまったのだとか。それでも物件への愛着が薄れることはなく、同じマンションの違う棟で賃貸暮らしをしながら約半年間、空室が出るのを待っていたというエピソードも教えてくださいました。
家族団欒は、キッチンで
M邸を語る上で外せないのが、大きなコの字型キッチン。『わぁ~』と思わず声に出してしまうほど、訪れた人のハートを鷲掴みにするどこか愛嬌のあるキッチンです。「料理が大好きなので、キッチンには物凄くこだわりました!自分で描いたスケッチを打合せに持参して、デザイナーさんにイメージを伝えたんです」と、はつらつと話す奥様。実はこの大きなキッチン、奥様だけの要望ではなくご主人の『家族団欒の場所をつくりたい』という想いの現れでもあります。「子供の頃、自分の部屋はあるけどリビングで勉強したり遊んだりすることが多くて、家族が常に同じ場所にいました。僕たちもそういう暮らし方ができたら嬉しいなぁと思っていて」 とご主人。設計デザイナーはお2人から汲み取った『料理好き×家族愛』というキーワードから、あえてリビングにスペースを割くのではなくキッチンに重きを置き、そこがM一家の家族団欒の場所となるようプランニング。そしてキッチン以外の水回りと寝室を既存利用し、その分LDKにコストと焦点を当ててリノベーションを進めました。 こうして完成したのは、ラフで無骨な雰囲気が漂う約21畳のLDK。その面積半分に匹敵するコの字型キッチンは、奥様がPinterestで見つけた海外のカフェを参考にモルタルで造作しました。腰壁にストライプ状に貼った木材には2色のオイルをランダムに塗布し、自然な風合いに。併設するダイニングテーブルは奥行1m、横幅約2.5mの余裕のある大きさで、ラフな表情が伺えるラーチ合板を採用しています。
「キッチンとダイニングテーブルの高さはどうしても揃えたかったんです。一直線になっていた方がスマートに見えるので!でもキッチンに立った時とテーブルに座った時にちょうど良い高さが違うので、リビング側の床を10cm上げてもらうことで解決しました」と奥様。キッチンを正面から見た時のビジュアルにもこだわっていて、ダイニングテーブルの厚みとキッチンの厚み(モルタル部分)が同じ4cmになるよう調整。存在感があるからこそ細かなディテールにまで気を配り、スッキリと見えるよう工夫が凝らされています。「一番落ち着く時間は、ラジオを聴きながら煮込み料理をしている時なんです。私がキッチンにいる時間が長いので、子供たちも必然とここに集まってくれて(笑)ダイニングテーブルがあるからここで絵を描いたりおもちゃで遊んだり、私の料理する様子をじっと見ていたりして」と奥様。「友人たちが遊びに来てくれて一緒に食事をしたのですが、このテーブルなら何品でも料理が並べられるので、食事の時間が更に楽しくなりました」とご主人。お2人ともこのキッチンとのエピソードを嬉しそうに話してくださいました。
キズやサビさえも愛おしい
M邸を彩る個性豊かな観葉植物や生花。近所のお店で購入したものも多くあるそうで、この街での生活を楽しみ、愛着を持って暮らしている様子が伝わります。「リノベーションして、楽しかった!って素直に思います。経年変化を楽しめる家に憧れていたので、暮らしていくうちにできる傷とか錆びとか、そういうのも含めて我が家が好きです。きっと子供が大きくなる頃にはもっと味わいが増している気がして、すごく楽しみ!」と、にっこり笑う奥様。インタビュー後には南瓜のチーズケーキとコーヒーを振舞ってくださり、ご主人と奥様お2人でキッチンに立つその姿を見ていると、どこかのカフェに遊びに来たようなワクワクとした気持ちになりました。
心地良いラフな空気感が漂うM邸。自然体で寛ぐことのできるこの家で、家族や大切な人たちとの思い出を紡いでいきます。