真っ白な壁にナラのフローリングや木天井、選りすぐりのインテリアが溶け込み、清く澄み切った空気が漂うW邸。シンプルな生き方を愛するご夫婦の、ミニマルを慈しむ暮らしとは。
街ごと愛す家探し
都心へアクセスがいい人気路線の、とある駅から10分ほど歩くと見えてくる白いタイル貼りの外観が清潔な印象のマンション。ここが、W夫妻がリノベーションの舞台に選んだお住まいです。
住宅購入の選択肢としてリノベーションを選んだのは、ご主人の発案だったというW夫妻。当初は新築マンションのモデルルームにも一度足を運んだといいますが、テンプレートなデザインの内装に“ここに住みたい”という気持ちが湧いてこなかったといいます。
「3〜4年前に中古を買ってリノベーションするという選択肢を知り、色々検索していくうちにnuリノベーション(以下、nu)さんのHPやインスタに辿り着きました。リノベーションの専門誌なども買いましたが、目に留まったり、いいなと思うデザインがみんなnuさんのものだったんです」。
こうしてnuとのお付き合いがスタートしたW夫妻。アドバイザーとは1年程かけてじっくりと物件探しを進めていったといいます。「10件弱内見して回りましたが、金額・広さ・眺望と、三拍子揃うものになかなか巡り合えなくて。コロナ禍が始まって一度頓挫してしまったりと難航した物件探しでしたが、アドバイザーさんはいつも親身になってくれました。物件の提案もたくさんしてくださいましたし、私たちから気になる物件の情報を送った時も、すぐ対応してくれました」と奥様。
当初はもっと都心に近いエリアで物件を探していたW夫妻ですが、理想にぴったり合う物件を求め候補エリアを拡大。多摩川を越えたこのエリアを検討し始めた時、『桜並木が見える』というキャッチコピーに惹かれ、今のご自宅を内見したと言います。
「実はここの最寄駅は、一度も降りたことのない駅で(笑)。でも実際に降りてみると駅前の雰囲気もよく、周辺に高い建物がなくて過ごしやすそうだと思いました。それに、このマンションはすぐ隣が大学のグラウンドなので学生の元気な声はたまに聞こえてきますが、それ以外の雑音などはあまりなく、住環境も魅力的だったんです」とご主人。
周辺環境に魅せられたこの物件。リノベーションで変えることのできない要素に目を向けることで、街ごと愛し続けられる理想の我が家に巡り合いました。
温かくミニマルに
内装は極力シンプルに、ミニマルな空間とすること。これがW夫妻が空間づくりで最も重視していたポイントでした。「それでいて温かみがあり、清潔感があって…」と、微妙なニュアンスを丁寧にデザイナーと共有していき、空間を構成する要素をミニマルにする分、一つひとつの素材選びは慎重に行ったんだとか。
中でも、特に時間をかけたのがクロス選びだったそうで、「当初は塗装を希望していましたが予算オーバーで…。壁紙のショールームへ足を運び、塗装のテクスチャに限りなく近い壁紙を吟味しました。かなり時間をかけて選んだよね」とご主人。最終的に選んだ壁紙は、表面の凹凸を最小限に抑えた薄手のクロスで、下地材の継ぎ目の微妙な隙間だけでも破れてしまうようなデリケートな素材。クロス工事が終わるまでは、どんな仕上がりになるかドキドキしていたといいます。「仕上がってみると本当に綺麗で。塗装よりこれを選んで良かったと思えるくらい気に入っています。巾木もないので、よりスッキリとした印象になりました」。LDKと廊下に巾木を設置しないこの仕様は、お二人が目指すミニマル空間を追求するためのデザイナーからの提案で、「実は打合せした記憶もほとんどなくて…(笑)。デザイナーさんが私たちの求める空間のイメージを汲んで、さりげなく取り入れてくださったんですね」と奥様。決めることがたくさんあって、つい後回しになってしまうような些細なパーツにまで配慮が行き渡った丁寧なシンプルさが、W邸特有の静謐な空気感を引き立てます。
また、キッチン天井に張ったナラの突板も、温かみのあるミニマル空間には欠かせない大切な要素。「キッチンの木天井も、どうしてもやりたい!と思っていたんです。予算の関係でできないかも…という話も出ましたが、なんとか入れてもらいました(笑)。木目調クロスを貼る案もありましたが、やっぱり本当の木はいいですよね」と愛おしそうにキッチンを見つめる奥様。ナラ材で造作したバックカウンターには、奥様が大好きだという作家・大谷哲也さんのカップなどが陳列されていて、シンプルな設えだからこそ際立つ器の美しいシルエットが、お二人の理想通りのミニマル空間を構成していきます。
プログラマーのご主人と、ゲームのUIデザイナーの奥様。ご夫婦揃ってデスクワークの時間が長いお二人は、リビングと一続きにレイアウトした書斎スペースにも並々ならぬこだわりが。
「せっかくオーダーで造るのであれば、自分好みの仕事がしやすい環境を整えたくて。自分でモデリングソフトを使って3Dイメージを作って打合せに臨みました。天板の奥行きなどは口頭でも伝えられますが、コンセントの位置やデスクを支える脚の位置まで細かく指定するには、ビジュアルでイメージを共有した方がいいかなと思って」というご主人。L字に取り付けたデスクは、BISLEYのキャビネットが両端にぴったりと収まるよう設定。キャビネットを格納した状態で、お二人が並んで座った時にデスク脚が適切な位置に来るよう寸法を設定しました。また、床から25cmほどの高さに取り付けるのが一般的なコンセントソケットは、配線の露出を最小限にできるよう天板のすぐ下に設置。配線を通す穴も、綿密に位置を計算して指定したおかげで、デスク上は常にスッキリと片付きます。
「書斎については、結構頑張りましたよ!(笑)」と楽しそうに話すご主人の横で「デザイナーさんもこちらのイメージをすぐ図面に反映してくれるから、やり易かったよね」と微笑む奥様。「書斎もそうですし、部屋全体に関しても、認識の齟齬が大きいと話し合いが時間の中に収まらないかもと思い、好みの色や好きなテイスト、これだけはNGというデザインなども、予めスプレッドシートにまとめてお伝えしていました。打合せをして、調整して…。ほとんど仕事感覚ですよね(笑)。でも本当に楽しかったですよ」。そう話すお二人の満ち足りた表情からも、オーダー型リノベーションならではの打合せを存分に楽しんでいただいた様子がひしひしと伝わってきます。
桜と歩む時間
この家に引っ越してきたのは昨年の5月。ちょうど桜が散り、新緑が芽吹き始めた時期だったんだとか。
「今年の春、待望の桜を見れたんです。入居した時はタイミングがずれてしまって見れなかったので、楽しみにはしていましたが、想像以上によくて」とご主人。「あと一つ下の階でも、あと一つ隣の部屋でも、ここまでドンピシャの位置で満開の桜を眺めることはできなかったと思います。そういった意味でも本当にいい物件に出合えたと思うと、嬉しいですね」と奥様も続けます。
自分好みにカスタマイズされた書斎での仕事の合間、ふと横を見ると内窓の奥に見える満開の桜。実際にその光景を体感して改めて、「本当に幸せだなぁ」と実感したとご主人はいいます。
清らかな空気の流れるこの空間で来年の桜を心待ちにしながら、W夫妻の穏やかな日常はゆっくりと進み続けていきます。