奥様の実家をリノベーションでアップデートしたN一家。住み慣れた実家の面影を残しながら創り上げたその空間は、親から子へ受け継がれる、家族への愛と建築への情熱が詰め込まれていました。
受け継いだ思い
都心の主要駅から数駅。個人商店のおしゃれな飲食店が軒を連ねる静かな街並みを少し歩くと、N一家のお宅が見えてきます。打ちっ放しのコンクリートとビビッドな赤い手すりを組み合わせた外観に一目でこだわりを感じるこの建物は、建築好きだったという奥様のお母様が建築家と一から建てた賃貸マンション。その建物の2〜3階に位置するメゾネット住戸に、Nさんご夫妻とお父様、元気いっぱいの小学生姉弟の5人家族で暮らしています。
以前はご主人のお仕事の都合で水戸にお住まいだったというN一家ですが、息子さんの小学校入学のタイミングで奥様の実家であるこの家に戻り、リノベーションして住み継ぐことを決意。『建築当初のお母様の思いを受け継いだリノベーションなら』ということで、当時からこの家にお住まいだったお父様も、実家をリノベーションすることに首を縦に振ってくれたんだとか。
「外観や内装に取り入れられているコンクリート打ちっぱなしのデザインは母が建築当初からテーマにしていたデザインでした。この建物が建ったのは私が高校生の頃だったので、あの時代にしては珍しかったんじゃないかと思います。情報収集の手段も今ほど多くなかった中で、住宅雑誌などを買い集めて打合せをしていた姿が印象的でしたね。だからこそ、この建物のコンセプトは大切にしたいと思っていました」と当時を振り返ります。
そんな奥様がnuリノベーション(以下、nu)を知ったきっかけはインスタグラム。「インスタを見ていたときに“おすすめ投稿”でnuさんが出てきたことがあって。テイストがとても好みで、いつかリノベーションするならnuさんがいい!と思っていました」と奥様。ご主人も「インテリアがおしゃれな投稿はよく目にしますが、nuさんは家具が入っていない状態も投稿されていたので『ここまではリノベで造っていて、インテリアを入れるとこうなるんだ!』というのがイメージしやすかったです」と続けます。
こうして、デザイン的なフィーリングがマッチしたnuと家づくりをスタートしたN夫妻。お母様の思いが詰まった空間に、時を超えて娘である奥様の思いが塗り重ねられる、家族の家づくりが動き出した瞬間でした。
ONとOFF
N夫妻には、当初から思い描いていた家づくりのテーマが2つありました。
まず1つ目のテーマは、家族で使えるフリーアドレスなスタディルームをつくること。「スタディルームをつくりたいと思ったのは、ONとOFFを分けたいという思いからでした。私自身、勉強机の後ろにベッドがあるような子供部屋だと勉強が捗らなくて、自習室が好きなタイプだったんです。だから子供にもそんな環境を整えてあげたくて、『スターバックスのカウンター席のような空間を家の中につくりたい!』とデザイナーさんにリクエストしました(笑)」と奥様。
そこで着目したのは、LDKと個室の間に位置する4Jほどの空間。和室だったこのスペースを、黒を基調としたシックなスタディルームにアップデートしました。マットブラックのペンダントライトが照らし出すカウンターはまさに本物のカフェさながら。LDKとの仕切りにはガラスの引き戸を採用し、「ガラスの扉で仕切る案はデザイナーさんが提案してくれたんです。しっかり個室だけど抜け感もあって、空間がより広く感じます」とご主人もにっこり。コーヒーがお好きだというご主人は週に一度のリモートワークをここで過ごしているそうで、ハンドドリップで淹れたこだわりの一杯を片手に仕事をする時間は格別なんだとか。
さらに、このスタディルームはキッチンに立つ奥様がお子様の勉強を見守るのにも最適な位置関係。ちゃんとやってるかな?とカウンターに並ぶ小さな背中をガラス扉越しに眺めるのも、とても幸せな瞬間だと微笑みます。「スタディルームには個室側へ回遊できる扉がもう一つ付いているので、子供たちも学校から帰って部屋にランドセルを置き、必要なものだけを持ってスタディルームに行くという動線ができています」と奥様。OFFの空間として位置づけたスタディールームの向こう側には、床を既存利用した寝室と子供部屋が並んでいます。学校関係のプリントなどを貼る家族の掲示板を廊下に設置しても来客時に目につかないため、このレイアウトはとても重宝しているんだとか。
奥様が思い描いたONとOFFが切り替わる空間が、スタディルームを中心に形づくられています。
N夫妻の家づくりの2つ目のテーマは、人が集まるLDKをつくること。
「6人掛けのダイニングテーブルは母の思い出の品なので、これを置ける空間というのが大前提でした。もともと来客も多い方なので“おもてなしができる家”という点は大きなテーマでしたね」と奥様。ご友人や地元の神輿仲間も遊びに来るというN邸。大人数で集まっても窮屈でないこと、子供も楽しみつつ大人も寛げるレイアウトなど、リノベ後の暮らしをイメージしながらデザイナーとの打合せを進めていきました。
そんなLDKの中で一際目を引くのは、キッチンを囲うモールテックス仕上げの腰壁。梁や階段横の壁など、お母様が大切にしていた建物のコンセプトである『コンクリート打ちっぱなし』の素材感とリンクし、洗練されたラフな雰囲気を引き立てます。給排水の関係でキッチンがLDから一段上がった造りとなっているのは当初希望していたデザインではなかったといいますが、実際に暮らし始めてみるとこの高さが功を奏しているんだとか。「キッチンに立ちながら会話にも参加しやすいし、ダイニング側からはキッチンを見上げる感じになるので内側がほとんど見えないんです。多少キッチンが散らかってもお客様に見えないのは助かります(笑)」と奥様。
キッチンの隣に造作した小上がりは壁と下り天井で囲まれていて、ダイニングエリアと緩やかに切り離された空間に。「今はプロジェクターを置いて、子供たちがゲームを楽しむ空間として使っています。大人がこちらでテレビを見ていてもお互いの時間を楽しめるので、この少し囲まれている感じがちょうどいいんですよね」とご主人。
そして、L字にレイアウトされたダイニング・リビング・小上がりを繋ぐのに重要な役割を果たしているのが、数あるソファの中からご主人が見つけ出したという『FLANNEL SOFA』のPIVOソファです。前や横、後ろ向きにも腰掛けられるそのデザインはN邸のためにあると思えるほど、3つのゾーンを心地よく橋渡ししています。
また、リビング・ダイニング・キッチンの天井裏にはそれぞれスピーカーが仕込まれていて、BGMをかけるとまるで隠れ家レストランに訪れたような気分。これもおもてなし空間を追求するN邸のこだわりの一つです。
ワインとピアノ
みんなが集まるLDKとスタディルームの間に置かれた電子ピアノ。コンクールに出場するくらい本格的に取り組んでいるという娘さんが、取材中にその腕前を披露してくれました。堂々とした姿と滑らかなメロディは、とても小学4年生とは思えない貫禄で、演奏終了と同時に「わぁ…!」と感嘆の声が漏れてしまうほど。
「コンクールの時は大勢の前に出て行って演奏しているので、人前でひくのには慣れているみたいですね。親でも感心してしまいます。友人が遊びにきた時も演奏を披露してくれたりして」と誇らしげに後ろ姿を見つめるご主人。そんなピアノの横にある柱にはニッチ棚がついており、N夫妻が好きだというワインのボトルが並んでいます。「中でもアルザス地方のワインが好きなんです。一般的なボトルより背が高いので、それに合わせてニッチの高さを指定しました」と、ここにも細やかなこだわりが。
ワイングラスを傾けながら、ピアノの音色と家族の笑い声を聴く…。
奥様の実家をリノベーションして生まれた新たな「実家」に、笑顔の絶えない家族の歴史がこれからも刻まれていきます。