白、グレー、木で構成した落ち着きのある空間。本当に必要なものだけを残して生まれたシンプルで穏やかな家に暮らす、仲良し夫婦のリノベーションストーリーです。
心から居心地の良い場所
小田急線の百合ヶ丘駅。賑やかな駅前とは対照的な、緑に囲まれた静かな場所にS夫妻のお宅はあります。今から1年ほど前、奥様のとある想いからリノベーションに踏み切ったお2人。「家って、かなり長い時間を過ごす場所じゃないですか。当時は賃貸に住んでいたので、心から居心地が良いと感じられる空間で暮らしたい!という想いが日に日に強くなっていて。それを叶えるためにはリノベーションがベストだと思ったんです」と奥様。マイホーム購入に向けて動き出す事を決め、ネットでリサーチしたリノベ会社3社の個別セミナーへ参加したお2人。最終的にnuへ依頼した決め手を尋ねると、「個別セミナーに参加して、『一緒にリノベーションをやっていきたい!』と一番思えたのがnuさんでした。アドバイザーの方とフィーリングがあっていて、全体を通してすごく楽しい時間でしたね」とにっこり笑うS夫妻。そんなお2人が物件探しで重視したのは、エリアでした。以前は奥様の勤務地に近い浅草に約4年半住んでいましたが、マイホームを買うなら、と奥様の実家がある小田急線沿いにエリアを絞り、70平米以上の物件を条件に探していきました。そして実家から2、3駅の百合ヶ丘近辺で5件ほど内見したのち、S夫妻が選んだのは小高い丘の上に建つ今お住まいのマンション。「静かな環境で暮らしたいと思っていたので、ここがベストでした。坂の上にあるので、窓から視線が抜ける感じも好きですね」とご主人。そして、「アドバイザーの方が物件情報だけでなく、物件からスーパーや小学校までの距離などの周辺環境まで教えてくださったので、物件を選ぶ際にとても参考になりました。あと、リノベでスケルトンにするということが前提ではありましたが、以前のオーナーさんが大切に住まわれていたという点も私の中では高ポイントで、ここがいい!と即決することができました」と奥様が続けます。
引き算が生み出す、静謐
デザイン打合せに向けて、好きな空間や理想のデザインに近い画像をPinterestにストックしていったというS夫妻。最初は思いつくままにイメージを収集し、そこから本当にやりたいことは何だろう?と削ぎ落としの作業を行っていったそう。そして最終的に辿り着いた理想は、白、グレー、木、の色数を絞った落ち着きのある空間。箱自体はシンプルに作り上げ、そこに季節の野菜や植物、アートなどで彩っていけるような引き算の家をイメージしたといいます。そして、そんなS夫妻の要望に対し、設計デザイナーは「seihitsu」(静謐)というコンセプトを提案。彩度を落としたトーンで情緒的な静けさを表現し、S夫妻が心から穏やかに過ごせるような空間をイメージしました。こうして出来上がったS邸は、玄関扉を開けると、土間、WIC兼ギャラリースペースが大胆に広がっています。その明るく開放的な空間は、ひとつの部屋のようなゆとりのある広さ。WIC兼ギャラリースペースは、元々収納のみの用途として設える予定でしたが、「今は夫婦2人分の収納で事足りるので、必要以上に広い収納を確保して空間をつぶしてしまうのは勿体無いと思ったんです。なので収納は必要最低限にして、残りは本などを飾るギャラリースペースにしました。家族が増えたら収納を増設して、フレキシブルに活用していくつもりです」とご主人。収納であるWICがパブリックなスペースと共存できるよう、出番の多い洋服のみを厳選し、インテリア性の高い目隠しカーテンを設置。生活感を感じさせないアパレルショップのディスプレイ風にコーディネートされています。タイルを斜めに貼ったグレーの床は、雑誌『POPEYE』に載っていたバンクーバーのアパートを参考に取り入れた奥様のこだわりポイント。土間の床にはかわいらしい小ぶりの白タイルをDIYで敷き詰め、シンプルながらも床材でアクセントをプラスしています。「土間に置いたスツールに座って、お風呂上がりにぼーっとするのが好きです(笑)何気なくつくった場所ですが、家の中で一番好きなスペースかもしれません」と、はにかむご主人。
20畳超えの広々としたLDK。バルコニーからたっぷりと光が注ぎ、空間全体を明るく照らしています。リビングの床には幅広の無垢オーク材を、ダイニングキッチンの床にはWICから続くグレーのタイルを張り、開放的な空間を素材の切り替えで緩やかにゾーニングしました。グレーと白で纏め上げたキッチンは、奥様のお気に入りの場所。キッチンの腰壁を覆うフレキシブルボードやバックカウンターのモルタル、コンクリート現しの梁など無骨な素材を取り入れながらも、白いタイルや塗装の白壁が清潔感を感じさせる爽やかな雰囲気です。キッチンの隣にはダイニングテーブルを配置し、作った料理をすぐにサーブできるようにプランニング。「ダイニングテーブルは、一枚板の天板を自分たちで選んでオーダーしました。存在感があって、とても気に入っています」とにっこり笑う奥様。そんな奥様が集めた選りすぐりの食器が並ぶバックカウンターは、実は竣工時にはなかったもの。気になって尋ねてみると、なんとご主人がDIYでつくったものなのだそう。予め購入を決めていた無印良品のシェルフにサイズを合わせ、シェルフを囲うように天板と側面をモルタル造作し、「親戚の大工さんに手伝ってもらいながら約3ヶ月で完成させました!慣れない作業で本当に大変でしたが、やっぱりDIYした箇所があると家に愛着が増しますよね。バックカウンター以外にも玄関のタイルや和室の漆喰、天井以外の壁面の塗装など、DIYを取り入れています」とご主人。シェルフには食器の他にも梅やらっきょうなどを漬けた瓶類がいくつか置かれています。「ちょうどリノベーションを検討しはじめた頃に、趣味で酵素シロップや梅干し作りをはじめたんです。だから、瓶を気にかけて見られるように扉を取り払ったオープンな収納にしたくて。オープンだと好きなモノをいつでも愛でられるので、いいですよね」と奥様。特にキッチンで趣味の時間を費やす事が多い奥様は、キッチンからそのままWIC、土間へとアクセスできる回遊性の良さを日々実感するそう。その回遊性が光と風の通り道となり、S邸には穏やかな空気が漂っていました。
モノを慈しむ暮らし
WIC兼ギャラリースペースの向かいにある、とある部屋。そこには和室が設えられていて、力強い文字で書かれた『日日是好日』という掛け軸がとても印象的でした。気になって尋ねてみると、「『日日是好日』は禅の言葉なんですが、『日日是好日』という映画を見てからこの言葉がすごく好きになって。和室が完成した時に、床の間に飾るのにぴったりだ!と思い、筆耕士の友人にお願いして書いてもらいました!大学時代に哲学専攻で禅の勉強していたことや、最近は座禅や写経のためにお寺へ通っていたので、書がより身近になっていたのかもしれません」と奥様。畳の下部は床下収納になっていて、シーズンオフの洋服や家電を仕舞っているそう。「実は引越しの時にかなり断捨離しました。これからは家の設計と一緒で、厳選した少ない持ち物を大切に使っていきたいと思っています。リノベで住空間が整って、大事なことに焦点があてられるようになったので、物を買う時にも作り手さんの過程や想いにリスペクトを持ってより吟味出来るようになりました」と朗らかに話す奥様。落ち着きのあるトーンで纏め上げた静謐な空間で、大切な物や人に囲まれながら、家族の穏やかな時間を育んでいきます。