コンクリートや塗装のざっくりした質感の中に、温かい光がふんわり回るワンルーム。Kさんが実現した大人のためのシンプル空間には、ご夫婦ならではの洗練された暮らしがありました。
すでに出会っていました
東京から電車で約40分、埼玉県の住宅地に立つマンションに暮らすKさんご夫婦。世にリノベーションという言葉が出てきたころからずっと、自由に家づくりができるリノベーションが気になっていたと言います。10年以上タイミングを見計らっていましたが、以前の賃貸の契約更新を機に本格的に動き出すことを決意。年齢を重ねて余計な悩みがそぎ落とされたことも、住宅取得に踏み切るきっかけになったそうです。
リノベーション会社選びでは、5社を検討したKさん。じっくり探す中で、それぞれの会社ごとにカラーがあること、プランがパッケージ化されている会社もあることを知りました。そのような制限の中で本当に自分たちがつくりたい家を実現できるのか不安に思っていたところ、辿り着いたのがnuリノベーション(以下、nu)だったのだそうです。
「nuさんは〇〇風とか〇〇系といったカラーがなかったので、その会社のデザインやこだわりに縛られず本当につくりたい家ができそうだと思いました。実はリノベ会社を探す前に“こんな家にしたい”と思う空間を雑誌からスクラップしていたのですが、たまたまnuさんの事例が多くて。だから会社として探すよりも前に、好きな事例として、すでに出会っていた、という感じです」と奥様。そして、「物件探しからワンストップで依頼できるのも良かったですね。また、アドバイザーさんの真摯な仕事ぶりも、大きな決め手でした。内見時には丁寧な説明をしてくださったのですが、話を聞いたら、私たちよりも先に来てすべて確認してくれていたことが分かって。とても感動したのを憶えています」とご主人が続けます。
Kさんが最終的に購入したのは築34年、63.3㎡のリフォーム済みマンション。「なんとなくリノベーションを考えていたときは、家は帰って寝るだけの場所だし、職場に近い都内の40㎡くらいの物件でいいと思っていました。でも、新型コロナウィルスの影響で私の仕事がリモートワーク中心になり、都内に住む理由がなくなって。家で仕事をするならある程度広さも欲しいので、物件価格と立地条件のバランスを見ながら探していたところ、nuさん経由でこのマンションを見つけました」。
今のライフスタイルにフィットした物件を取捨選択し、長年あたためてきたリノベーション計画が動き出しました。
妻のような空間
奥様が望んだのは、とにかく風通しが良いワンルームの家。もともと壁や扉が好きではなく、モノを隠すことも好きではないので、間取りはワンルームしか考えられなかったのだそうです。
「妻はフリーランスなので、主に家で仕事をしています。私もよく仕事を持ち帰るので、賃貸時代から夫婦ともに家で仕事をすることは日常茶飯事でした。ただ、お互いが集中できる環境をつくることは自然とできていたし、ワークスペースと生活スペースを切り分ける間取りは考えていませんでしたね。なので、ワンルームに異論なし。まぁなんというか、視線がスカッと抜けて広々して、風通しのいいこの空間は、妻の性格そのものです(笑)」と、ご主人はやさしく笑います。
ほぼ仕切りのない空間を、フローリングとタイルの床で視覚的にゾーニング。ベッドルームとワークスペースにはRのレールを取り付けて、必要なときはカーテンを閉めればゆるやかに仕切れるようにしました。
実はこの部屋はリフォーム済み物件で、購入したときは新しいシステムキッチンが導入済み。せっかくなのでそれを活用するつもりでプランニングを始めましたが、シンプルな造作キッチンなら予算的に導入できるとわかり、食洗機だけは流用して好みのデザインで造作することにしました。当初のシステムキッチンを使うプランではリビングからキッチンが見えない間取りで設計していたものの、「造作にするなら魅せたい」と、オープンな間取りに変更。暮らしの一部に溶け込むキッチンが完成しました。
限られた予算内でのリノベーションの場合、予算の掛けどころを決めて建材や設備にメリハリをつけるのが一般的ですが、普段から何をするにもバランスを重んじるタイプだという奥様は、全体的に平均点なバランスが良い家を望んだのだそうです。「0点と100点がある家ではなく、全体的に80点以上の仕上がりで、残りの20点はこれから自分たちで埋めていくようなイメージでしたね。とにかくバランスを重要視するバランサーが、我が家にはいるので(笑)」と、ご主人は補足します。
K邸を語る上で外せないのが、LDに佇む円柱。この正体は、リノベーション時に動かすことのできないPS(パイプスペース)です。通常は壁面などに隠されているPSですが、今回ワンルームという間取りを希望したことで、PSが露わになることに。そこで、動かせないのなら「意匠として魅せる」という選択をしたKさん。PSを曲線状の下組みで覆い、職人技を集結させたアートのような白い円柱が完成しました。
それからデザイン面でKさんが希望したのは、躯体を現した無骨な雰囲気。白とグレーと木をバランスよく掛け合わせたインダストリアル過ぎない落としどころを、設計デザイナーと一緒に探っていきました。
「プランニング中は、理想のイメージをとにかくたくさん設計デザイナーさんに共有しました。日頃からインテリア誌を読むのが好きなので、いいなと思うページをコピーして、イラストも添えて共有しまくってました。コピーなんて、とてもアナログですけど(笑)」。 そう笑いながら、今でも大切に保管している打合せ資料をめくる奥様。コンクリートや塗装のクールな空間でもあたたかい空気を感じるのは、ご夫婦のお人柄が漂っているからでしょう。
大きい家具はこの家に合わせて新調。部屋になじむか、手持ちの家具に合うか考えながら、一つひとつ丁寧に選んできたと言います。スタンダードなものより皆が持っていないようなものを好み、ちょっと遊びを含むものを選ぶのが、Kさん流なのだそう。
「ヴィンテージの家具が好きなんですけど、そればかりに偏らないように、現代のプロダクトとミックスしています。この家は色んな要素があって雑多と言えば雑多ですけど、全体のバランスをうまく見ながら配置しています」。もともとフィンランドが大好きで、以前は毎年のように旅行に行っていたというご夫婦。この家には、現地の蚤の市で購入したアイテムも並んでいます。本来であれば、この家に合った照明器具や家具も現地で購入したかったものの、近年の渡航規制で叶わなかったそう。近い将来、新たな仲間を迎えることも、今後の楽しみの一つです。
サブスクからアナログへ
この家に住んで1年半。そうとは思えないほど、ご夫婦はこの家を住みこなしています。特にご主人は、「賃貸からここに引越してくるときに、大量にあった本やCDを整理して、本当に思い入れがあるものだけを持ってきました。本は内容を自分の中に留めておきたくて所有していたけど、心に留めておくことと所有していることは別物だったと気づいてしまって。あと、妻が『眠らせておくだけではCDが可哀想』と言うので、この家に来てからCDプレーヤーとスピーカーを買いました。ここ10年くらい音楽はイヤホンで聴くものになっていたけど、ちゃんと空間で振動を感じながら聴けるようになったことがうれしいですね。このサブスク全盛の時代に、CDも喜んでいるかと(笑)」。
最近は家事を分担するようになったというご夫婦。始業すると夜まで忙しいので、朝食は必ず一緒に、ゆっくり食べるのだそうです。「朝食は、朝時間がわりとある私の担当です。主にパンで、メニューもルーティンですけど。ここ最近はコーヒーの味に幅があることを知ってしまい、残りの人生でできるだけ好みのコーヒーを飲みたいと思っていて。手間はかかりますが、一丁前に朝から豆を挽いています。ラジオを聴きながら、他愛のない会話をして。だけど、ゆったりしていい時間ですね」とご主人。
どこまでも穏やかで洗練された、Kさんご夫婦とその暮らし。大空間を心地よく通り抜ける風を感じながら、これからもパートナーと大切なモノたちを慈しみつづけていくことでしょう。
Interviewer & text 安藤小百合