建築士のご主人が人生2回目のリノベーションでつくりあげたのは、1回目のご自宅とは少し異なる空気を纏った空間。変わっていく暮らしと、変わらずに大切にしたい思い。その両方がバランスよく落とし込まれた、W夫妻ならではの家づくりとは。
2年越し、2回目のnu
東京都渋谷区。渋谷駅から電車でもバスでもアクセス可能な好立地に佇むタイル貼りの低層マンションが、W夫妻が2回目のリノベーションの舞台に選んだお住まいです。約2年前にnuリノベーション(以下、nu)で1回目の家づくりを経験したお二人が住み替えを考え始めたきっかけは、暮らしのプライオリティの変化だったといいます。「以前の家は約50㎡をほぼワンルームとして使っていて、LDKの広さを優先させた家でした。友人を招いてホームパーティをするのが生活の一部である私たちの価値観に合った空間で、それはそれですごく好きだったんですが、篭れるスペースがないのでWEB会議がバッティングするとお互いの音を拾いあってしまって。不便に感じるシーンもあったんです」と奥様。「もともと売却を視野に入れて、中目黒という立地を選んだという経緯もあったので。タイミング的にも、動くなら今かなと思って」とご主人が続けます。
ご主人の読み通り、実際にご自宅を売却に出してみると物件情報を掲載した翌日には購入希望者が見つかったというW夫妻。嬉しい知らせだった反面、次の住まいを探す時間が予想外に限られてしまったといい、「買主さんにできるだけ引渡し時期を伸ばしてもらったんですが、それでも1.5ヶ月くらいしか猶予がなくて。かなり戦略的に物件を探さないといけなくなりました。2回目の家づくりもnuさんで、と考えていたので、スプレッドシートを使ってアドバイザーさんと希望条件を共有をして、オンタイムで情報交換することで内見する物件を絞っていきました」。そう言って見せてくださった当時のスプレッドシートにはたくさんの物件名と、各物件へのご主人とアドバイザーそれぞれのコメントが記載されていて、短期間でいかに密度の高い物件探しをされていたのかが窺い知れます。
5〜6件の内見を経て購入したのは約65㎡・築21年のお部屋。以前のご自宅より一回り広く、築年数は半分ほどの物件でした。「外観や共用部のデザイン・管理状態が総合的に良くて、この物件に決めました。以前住んでいた中目黒は“若者の街”という感じで当時の私たちにはフィットしていましたが、今後のライフステージを考えた時、周辺環境が落ち着いているこのエリアがこれからの私たちにはフィットするかなと思って」とご主人。こうして、nuの設計デザイナーと2年越し、2回目のデザインミーティングがはじまりました。
普遍的なライフテーマ
「今回も永住というよりは住み替えが前提なので、今の自分たちの暮らしやすさを追求することはもちろん、資産価値を高めることや売却のしやすさを視野に入れたプランであることも重視していました」。そう話すご主人は、オフィス設計をメインに手がける一級建築士。ご自身でも何度も線を引き、ラフプランを持参して打合せに臨んだといいます。2回目の家づくりも、前回と同じ設計デザイナーが担当。お互いの空気感をわかり合っていたこともあり、「1回目のとき以上に楽しめた」とご主人はいいます。「私たちがどんなことにこだわりたいタイプなのか、どうやって空間づくりを進めたいのかなどを覚えていてくださったので。今回はスケジュールのリミットも決まっていたこともあり、限られた時間の中で密に打合せができたのは助かりました」。
そんなW夫妻が家づくりのマスト条件として掲げたポイントは大きく2つ。
1つめは、今回の転居のきっかけともなった“お互いのワークスペースを少し離れた位置にレイアウトすること”で、一度リノベを経験したからこそ、改めてその必要性に気づいたポイントだったんだとか。ご主人は廊下に面する一室を、奥様はリビング窓際のオープンスペースをそれぞれ仕事場として使っているといい、「小上がりの床材は、私の希望で畳にしてもらいました。疲れた時はそのまま休憩できたり、仕事をしていない時は寛ぐ場としても使えるので、小上がりはすごくいいですよ」とにっこり。
そして、2つめのポイントは“ホームパーティを楽しめるコミュニカティブなLDKにすること”。これは、ご友人を家に招くことが多いW夫妻が1回目のリノベから変わらず重視している普遍的なテーマで、ただ広ければ良いわけではなく、それぞれが会話を心地よく楽しめるよう、人が集う場を点在させることが求められました。
「8名前後の友人が集まることもあるんですが、会話の単位って3〜4名なんですよね。そうなった時、自然と各々が散らばって会話できる空間をつくりたかったんです。造作ベンチもそのひとつで、この物件は横に長いから、LDKと寝室を遠ざけようと思うとどうしても通路が必要になる。では、そこに“集う場”としての意味を持たせよう、と思ったんです。旅行の前は荷物をためて置くなど想定外の使い方もできていて、いろんな場面で活躍してくれています」。そんな造作ベンチの背面に彩りを加えているのは、お二人がDIYで貼ったというコルク材のウォールデコレーション。「絵を飾ろうと思っていましたが、仕事繋がりでこの商材を紹介いただいて。もともとオフィス用なんですが、貼り方次第で表情がガラッと変わるユニークなデザインが面白いなと、取り入れてみました」とご主人。
ベンチ以外にも、随所の壁に取り入れた素材や色使いが印象的なW邸のLDK。
中でもキッチンの壁に貼られた赤褐色のタイルは、ご主人が基本設計を検討していた際から取り入れることを決めていたデザインだといい、「赤レンガの素材感が昔から好きで。当初はほかのメーカーのタイルを検討していましたが、デザイナーさんが取り寄せてくれたサンプルの中によりイメージに近いものがあって、こちらを採用しました」。
隣り合うダイニングの照明には、ブルーのコードがアイコニックなライン照明が設置されていて、「意外な色の組み合せですよね。この照明は夫とデザイナーさんがかわいい!って盛り上がっていて、多数決でこれにすることが決まったんです(笑)」と冗談まじりに話す奥様。ご主人も「この照明と玄関の球体の照明は結構気に入ってます。取付けに工事が必要な照明なので、住宅で使われていることは少ないんじゃないかな?」と、建築士ならではのこだわりポイントを教えてくださいました。
また、リビングや廊下、玄関の壁など、空間的に余白になってしまう部分にはアクセントで素地の木を貼りラフな風合いをプラス。「寝室・ワークスペースへの扉は“ドア感”を極力無くして周りと同質化させたかったので、同じ素材で造作してもらってベンチも含め一つの世界観でつくってもらいました」とご主人。取っ手には設計デザイナーから提案された真鍮のアイテムを選択。寝室内に取り付けた棚のブラケットや、キッチンの取っ手も真鍮で統一し、さりげない輝きを忍ばせました。
前職がプロダクトデザイナーだというご主人ならではの、素材や色使いへの細やかなこだわり。その一つひとつが細部で際立ち、W邸の唯一無二の空気を形作っています。
進化する暮らしづくり
人生の半分を海外で過ごしてきたご主人と、同じく海外に居住経験がある奥様。以前まではかなりの頻度で海外旅行を楽しんでいたといいますが、ここ数年はなかなか国外への渡航が叶わず、歯痒い思いをされていたんだとか。
「夏に久しぶりにシンガポールへ行くことができて。海外に住んでいた頃からあちこちに旅していたので、少しずつではありますがやっと日常が戻ってきたなと感じています」と話すご主人。
今まで訪れた国で購入したという器や雑貨が並んだキッチンカウンターやベンチ上の吊り棚は、さまざまな国のカラーが混ざり合い楽しげな雰囲気。そんなW夫妻の旅先での共通の趣味はスキューバダイビングなんだそうで、「ボンベ以外は一式持っているので、ダイビング用品の荷物が結構多くて。今は二人暮らしで収納にも余裕がありますが、将来的に手放すことも考えています。暮らす場所や手元に置いておくべきものなど、その時その時の自分たちに合わせて見極めていきたいですね」と、顔を見合わせるお二人。
固定概念に囚われず、軽やかな暮らしを楽しむW夫妻の“家づくり=暮らしづくり”は、これからも進化し続けていくことでしょう。