
息を飲む開放感と、住まいとは思えないほどの上質さ。アートギャラリーのように静謐な空間には、5年越しのリノベーションへの情熱と達成感がもたらす家族の笑顔がありました。
5年越しの情熱
「インスタグラムで色んな家を見るなかで、いいなと思う家はみんなリノベーションだったんです。新築は間取りもありきたりで、キッチンや洗面などの設備も自分で選べないし、『みんなこういうのが好きでしょ?』と選ばれたであろうモノたちが、私たちには全然刺さらなくて。それに、親族から戸建は維持費が大変と聞いて、それなら中古マンションリノベーション一択だなと」。
そう話すのは、都内に立つ築14年のマンションに住むMさん。会社員のご主人と奥様、8歳の娘さんの3人家族です。実はMさん、中古リノベを決めてから実現まで5年弱かかっており、念願のリノベライフに喜びもひとしお。というのも、5年前、このマンションの美しい外観に惹かれ、2年前には購入手続きを進めていたものの、以前の住人の都合で破談に。どうしてもこのマンションを諦められず、近くの賃貸に住みながら空室が出るのを待ち、ようやくこの一室を購入したのです。
「外観だけでなく、共用部のデザインや部屋の箱のつくりも本当に良くて。私たちは直線が好きなので、梁をはじめ余計なものが一切出ていないスッキリしたつくりが本当にいいと思いました。立地的にも通勤に不便はないし、もう絶対ここだねって」と、ご夫婦は熱く話します。
ここまで惚れ込んだ箱の美しさを活かすリノベーションをするべく、4年前の時点でリノベーション会社を探していたMさん。nuリノベーション(以下nu)との出会いはインスタグラムで、躯体現しなどのリノベらしいデザインはもちろん、シンプルでミニマルなデザインも得意であると直感。ここなら望む住まいがつくれそうだと、nuに相談に行ったそうです。
「リノベーションの基礎知識や流れを一通りレクチャーしていただきました。色んなリノベ会社があるようですが、nuさんは既存を活かす部分リノベも得意なことが決め手になりましたね。それと、いただいた資料が感動モノで。私は広報の仕事をしているので、会社パンフレットやノベルティが気になるのですが、すべてが本当に良かったんです。自分たちの考えを整理するためのノートも、工程や全体の流れが分かる資料も、ただのテキストではなく隅々までちゃんとデザインされていて、すごく見やすい。『これ、真似しようかな?』と思ったくらい(笑)」と、奥様は振り返ります。
年月を経て無事にこの部屋を購入し、いよいよnuと二人三脚でのリノベーションが始まりました。
狂おしいほど好き
Mさんが描いたのは、『とにかく広い空間で、好きな家具に囲まれる暮らし』。賃貸時代は狭くてモノがあふれていて、ゴチャゴチャした空間での暮らしから解放されたかったと言います。
そこで、なるべく既存の間取りを活かしつつ、LDKに新たなゆとりを生み出すことに。以前は、西側に対面キッチンと居間、それに隣接する洋室、中央の水回りを挟んで東側に洋室が2つある間取りでしたが、そこから基本的な配置は変えずに、西側の居間と洋室の間の壁だけ取り払い、18.1畳の広々LDを実現しました。
キッチンは、LD空間の直線の美しさを崩さないために、位置を変更せず既存の形を生かして、独立(個室) 型に仕上げました。
「ペニンシュラキッチンのイメージ図も出してもらいましたが、線がガタガタしてどうも美しくなかったんです。独立型にして正解でしたね」と、奥様は目を輝かせます。
LDだけでなく、キッチンも常にスッキリとした状態を保つために、隠す収納が必須。生活感の出やすい食品ストックや調味料、調理器具や食器類などは全て扉付きのバックカウンターに収納し、ミニマルなLDと世界観を統一させました。
デザイン面は、建物の外観や共用部との一体性を重視。基調色は白とグレーで、外観に劣らない上質さを演出しました。住居とは思えない気品をつくり出しているのは、LDの床一面に施したグレーのタイル。木素材も検討したものの、一気に新築感が出てしまうと感じ、違う選択肢を探ったそうです。
「妻がインスタグラムで見ていた素敵な家は、みんな床がグレーだったことに気づいて。買うと決めていたダイニングテーブルも木素材だったので、それならグレーの床にした方が映えるんじゃないかって」と、ご主人。塩ビタイルは継ぎ目が目立ちにくく、ノイズが少ないので、その点でもこの選択は大正解だったようです。
そして、ご主人が最後の最後までこだわったのが、既存のリビングドアを活かすこと。取っ手がシルバー、サイドの壁がガラスと、住宅にデフォルトで採用されるには珍しいデザインでした。
「以前の住人がボコッと凹ませてしまっていたのですが、どうしても捨てきれなくて、同じデザインでつくってもらおうとしたんです。結局パテで補修してもらえて、こんなに綺麗になりました。せっかくリノベーションするのに、既存と同じデザインでつくり直してもらおうだなんて、今考えると狂気の沙汰ですよね(笑)。でも、それくらい気に入っているんです。この扉が」と、ご主人。
特に正面からの眺めがお気に入りで、壁の直線ライン、スイッチプレートの配置とのコンビネーションが最高なのだとか。こうして、Mさんの希望がすべて叶った空間が誕生しました。
予算内、想像以上
ノイズを極力取り除いたシームレスでミニマルな空間は、実面積88㎡以上の圧倒的な開放感。天気が良い日は、窓から富士山も拝めると言います。
マルニコレクションのアームチェア『HIROSHIMA(ヒロシマ)』、Vitra(ヴィトラ)の『スタンダードチェア』など、選りすぐりの家具がすっきりと配置されたLDは、まさにアートギャラリー。中でも、カリモクケーススタディのダイニングテーブルは、自然光が差し込むとディテールが強調されて息を飲む美しさです。
和紙照明の『AKARI』に、プラスチック素材の『スカイフライヤー ペンダントランプ』、メッキとスチール素材のUSMハラーのシステム収納。異素材の家具たちが、ギャラリー感を一層高めています。
さて、5年前に描いた『とにかく広い空間で、好きな家具に囲まれる暮らし』の実現度を尋ねると……。
「もちろん100点です。コーヒーを豆から挽いて、ダイニングでゆったり飲む時間が最高に幸せですね。夜は全体の照度を落として、『AKARI』のやさしい明かりだけで過ごしています。一日がゆったり終わっていく感じがして、すごくいいんですよ」と、奥様。お酒が好きなご主人は、テレビやYouTubeを観ながらのびのびと晩酌を楽しんでいるそうです。
今回のリノベーションは、洗面台やトイレは既存を利用することでコストコントロールにも成功。予算オーバーを覚悟していたものの、予算内ですべての希望が叶ったと言います。
「実は予算内でここまでできると思っていなかったんですが、できちゃった(笑)。理想のカタチに納まって、後悔するポイントが一つもないですね。設計デザイナーさんが私たちの好みをしっかり理解した上で選択肢を出してくれたのが大きかったと思います。水栓一つにしても、3つくらい候補を出してくれて」と、奥様は振り返ります。
そして最後に、こんなエピソードを教えてくれました。
「nuさんとリノベーションする中で一番感動したのが、フットワークの軽さです。当初からお世話になったアドバイザーさんは、自社でリノベしたご自宅まで見せてくれたり、私たちが買う予定の家具をわざわざお店に見に行ってくれたり。まさかここまで、とびっくりしました」。
一つも妥協することなく、中古リノベーションを満喫したMさん。この極上の空間で、今日も穏やかな時間を過ごしています。
Interview & text 安藤小百合