アーチ開口の先に広がる無垢材を敷き詰めたダイニングとカーペット貼りのピットリビング、デイベッドのような造り付けソファ。使い込むほどに味わいの増す素材とアンティーク家具に囲まれたK邸には、ゆっくりとした時間が流れていました。
諦められなかった思い
神奈川県横浜市。穏やかな空気が漂う街並みを眺めながら約10分ほど歩くと見えてくる赤茶色のタイル張りのマンションが、Kさんがリノベーションをして暮らすご自宅です。
この家で暮らし始めて約2年。現在は都内のパティスリーにお勤めだというKさんは、それまでは地元・会津で妹さんとカフェを経営していましたが、お店を閉めて上京することを決めたのだそう。上京先で賃貸を借りるかマンションを購入するかを検討する中で、知人からの勧めもあり“中古マンションの購入+リノベーション”という選択肢を考え始めたといいます。
「単身女性がローンを組むのは難しい、という漠然としたイメージから、最初は不安もありました。それに、中古マンションを買うのであればリノベーションしたい!という憧れもあったんですが、家を買うこと自体難しいかもしれないのにリノベまで出来るのかな?とも思っていて…」とKさん。それでもやはり『リノベしたい』という気持ちが捨てきれず、ネットで方法を調べていくうちに、nuリノベーション(以下、nu)の“ワンストップ”という言葉が目に留まったんだとか。
「物件代金とリノベ費用を合わせて住宅ローンが組めるということを、そこで初めて知って。これなら私もリノベ出来るかもしれない!と問い合せてみたのが、nuさんとの出会いでしたね」。個別セミナーを担当したアドバイザーの印象を尋ねると、「すごくさっぱりしたタイプの人でした(笑)。でも、だからこそ頼り甲斐があったというか。物件が決まってからの諸々の手続きなども、大変そうな表情を一切見せずに最後まで引っ張っていってくれて」とはにかむKさん。
今のご自宅は、調べ物をしていた時にたまたま見つけた物件だったといい、「この部屋は4階でエレベーターがなく、駅からも10分ほど歩くので、価格が少し安かったんです。これならリノベ費用と合わせても無理なく資金計画が組めそうだなと思って。住んでみると周辺の音も気にならないし、階段も適度な運動になるので(笑)。結果的に最良の判断だったなと思います」と朗らかに話します。
昭和っぽい家づくり
物件が決まり、早速スタートした設計デザイナーとの打合せは、「新しい世界を見るような気持ちでした」と振り返るKさん。
「自分にはない発想で空間やデザインと向き合っているデザイナーさんの姿が、打合せをしていて面白かったです。『ここのラインはすっきり納めたいですね』、『スイッチはここではなく、こっちの壁に付けた方が綺麗ですね』など、素人ではわからない観点から提案をしてもらえました」。仕事柄デザイン職の方と接する機会も多いというKさんは、そんなデザイナーの“こだわりポイント”もなんとなく理解できたといい、Kさんの理想のイメージを踏まえた上でのデザイナーからの提案も積極的に取り入れていったといいます。
その中の一つが、洗面室の扉に取り付けた錠前や、床の見切り材に使われている真鍮パーツ。素材やインテリアの経年変化を楽しみたいというKさんの要望に合わせてデザイナーがセレクトしたこの素材は、時間が経つほどに表面の色が変化し味わいが深まっていくという特性を持つため、アンティーク家具が並ぶK邸には打って付けの素材です。
「新品だけど、ピカピカじゃない空間がよかったんです。ちょっと昭和っぽい感じというか、使い込まれた素材感に惹かれるんですよね。家具もユーズドのものを置くと決めていたので、それに合わせて床はチークの無垢材にしました。家具も床も、これからの経年変化が楽しみです。『もっと味わい深くなれー!』って(笑)」と愛おしそうにLDKを見渡すKさん。
家具は、今までご自宅で使っていたものやリノベーションを機に購入したものに加え、以前経営していたカフェで使っていたものや、今のお勤め先の店舗リニューアルに伴って要らなくなった什器を引き取ったものなどと、それぞれにユニークな背景があるものばかり。辿ってきた道筋は全く違うにも関わらず、統一感があって心地良いのがK邸の不思議なところで、そんなインテリアを創り上げるコツを尋ねると、「何を手に取るにも、この木の色と曲線的なデザインが好きだから、自然と揃っていくのかもしれませんね」というKさん。確かに、玄関のアーチ開口やラウンド型のダイニングテーブル、アーコールチェアなど、Kさんのお宅には角のないデザインが随所に散りばめられていて、直線的なラインが多くなる空間にやさしいアクセントを加えています。
無垢チークのフローリングで仕上げたダイニング・キッチンと、カーペット敷きのリビングを繋ぐ14cmの段差。実はこの段差は、Kさんの希望であえて付けたものなのだそう。「コンパクトなLDKなので壁で仕切るのは嫌だけど、リビングとダイニングはゾーン分けしたくて。それに、最近はバリアフリーが主流かもしれませんが、段差を付けることで昔ながらの家の雰囲気を出したかったんです。デザイナーさんと一緒に、打合せブースで段差をつくって踏み込む感触などをシミュレーションして、最終的にこの高さに行き着きました」。
一段下がったリビングの床は、毛足の短いベージュのカーペットを採用。寒いのが苦手だというKさんは、寛ぐ空間は温かみのある素材で仕上げたかったといい、「当初は寝室までカーペットにする予定でしたが、張り替えの時にすごく手間が掛かることを知って。デザイナーさんとも相談してタイルと張り分けることにしたんです。ベッドの下って意外と埃が溜まるので、クリーナーでさっと掃除ができるこの床材にしてよかったです」。
カーペットの範囲をリビングのみにしたことで、貼り替えの際には長方形で簡単にオーダーができたり、ベッドなどの大きな家具を動かす必要も無くなったりと、メリットがたくさんあったというKさん。そんなリビングには、飾り棚と一体的にデザインしたソファを造作し、窓辺の一番心地のいいスペースにペンダントライトを設えました。
「ここでは本を読んだりテレビを観たり。デイベッドぐらい奥行きがあるので、ゴロンとするのも気持ちが良いですよ。それに、造り付けなのでソファの下を掃除する必要もなくて。この家は総面積が45㎡くらいですし、お手入れがしやすくなるよう工夫されているので、隅々まで掃除を行き渡らせることができるんです。清潔感のある空間は、やっぱり気持ちがいいですね」。
デザインとメンテナンス性の高さに裏打ちされた居心地の良さ。まるでアンティーク家具そのもののようなこの家は、古いものを慈しむKさんにぴったりの空間です。
「全てが心地いい」
自分好みのテイストで、暮らしに合わせてオーダーメイドされた空間では、なにをする時も無理をする必要がなく、等身大の自分でいられるというKさん。
「この家で過ごす時間は、全てが心地いいです。何もしていない時にこそ幸せを感じるというか…。あ!でも海が割と近いので、朝遠くから船の汽笛の音が聞こえてくるんですよね。それをベッドで微睡みながら聴いている時間も、本当に幸せです。実は、人を家に招いたりというのはあまり得意ではないんですが、私のように『自分にはリノベーションは難しいかも』と思っている方にも、リノベーションで理想の暮らしを叶える方法はあるんだよ、ということ知っていただければと思って今回nuさんの取材をお受けしたんです。なので、この記事を少しでも参考にしてもらえたら嬉しいですね」と笑顔で取材を締めくくってくださったKさん。
住まい手のやさしさが充満し、ゆっくりとした時間が流れるK邸。大好きなコーヒーやお茶を楽しむ時間、ソファで本を読んだり、のんびりと過ごすひととき。想像するだけで心が温かくなるKさんの暮らしは、家や家具と共に時間を重ね、味わいを増していくことでしょう。