アクセントカラーはブラック、ディテールにこだわりを追求。見た目はスッキリ・シュッとしたつくりの空間だけど、2人にとっては一番くつろげる部屋。お酒が好きな仲良し夫妻の暮らすヴィンテージマンションをご紹介します。
長辺に明るさを求めて
「オシャレな部屋に住みたかったんです。」以前もリノベーション済みアパートに暮らしていたというM夫妻。場所は今の住まいとは縁もゆかりもない川崎。なぜそこに暮らしたのかという問いに対し、こう即答したのはご主人。「床一面モルタルで、縦に長い間取りの家でした。とにかくリノベ物件に暮らしてみたくて探して見つけたのがここだったんですよ。」と。しかし、1年半ほど暮らしてみて、通勤の不便さと縦長の空間の薄暗さが気になり引っ越したいと思い始めたんだとか。「次に引っ越すなら、年齢的にも家を購入したいと漠然と考えていました。賃貸だと自分のものにはならないし、家賃を払い続けていかなければならないのでこのままお金を払い続けるのもどうかと思って。」そこで、2016年1月から物件探しをスタート。通勤に便利なエリアということで、23区内でできれば中心地にあること。そして今度は物件の長辺で採光が確保できるような物件を絶対条件として検索。物件探しと時期を同じくして、nuのこともネット検索で知り問い合わせた。すぐに相談会にも参加し、担当アドバイザーと二人三脚で物件探しをすることに。当初は23区内で物件探しをしていたが、都心だと広さを妥協しないと予算と合わないことがわかり、門前仲町や西葛西などの物件も内見に行ったという。それでも、最終的に決めたのは最寄駅が乃木坂のヴィンテージマンションである。たまたまタイミングよく見つかったその物件が、お2人の要望にぴったりでほぼ即決だったそう。築47年という年数ながら、共用部は掃除が行き届き清潔な雰囲気。以前の住まいとは異なり、南向きに長辺が面したとても明るいつくりのマンション。実は以前その部屋に住んでいた売主もその物件をリノベーションして暮らしていたというので驚きである。結果的にM夫妻が、活かせる場所はそのまま使用する「ECO ORDER」を選択してリノベーションすることになったのも、そんな経緯があるからかもしれない。
軽やかさを演出するプロフェッショナル
元々2LDKだった間取りを、長辺を窓側に配置させた1LDKに変更。バルコニーに面した9m弱の面からは惜しみなく日光が差し込む。リビングと隣接する5畳ほどの寝室は、周りをガラスで囲ったためパッと見ただけでは1ROOMのようにも見える。「普通の家ではやらなそうなことをやりたかったんですよね。」ニヤリと笑うご主人の“カッコ良い家”への追求の仕方は、正直、想像を遥かに超えていた。例えば、寝室のガラス壁。これは仕事で訪問した先のオフィスにあったガラス壁がかっこよくてそのまま家にも採用したいと思って取り入れたんだとか。「仕切る意味あるの?とツッ込まれます(笑)。来客の際には中が見えてしまいますが “見せる”という建て付けなので、隠すくらいなら見せていません。大胆で気に入ってますよ。」と満足そう。約80センチ毎にスチールで区切ったガラス壁は向かって右から2枚目が扉になっており、そこから出入りする。リビングと寝室はレンガを張り込んだ壁を共有しており、寝室のレンガ壁にはなぜかホワイトボードが。何に使うのかと尋ねると「ちょうどこの家の設計中は仕事が忙しい時期で。仕事を持ち帰った日にここで考えられるようなスペースにしたかったんです。まあ、あとは普通の寝室じゃ物足りなくて。」とご主人。訪問先のオフィスからヒントを得たガラス壁よろしく、寝室であり、寝室でない雰囲気が唯一無二だと感じる。キッチンバックカウンターにつくり付けたリキュール瓶の並ぶ棚もまたMさんらしい。「(夫婦)どっちもお酒を飲むのが好きなので、これは絶対につくろうと思っていました。代々木上原に好きなバーがあるのですが、お酒の並ぶ棚が間接照明で光ってるんですよ。オシャレだなーと思って取り入れました(笑)。」こんな風にラフに語るご主人だが、よくよく考えてみると日常生活のどんな時にも、“これ使えそう!”というアンテナを張り巡らせている。そうやって好きなデザインやアイディアを少しずつ自分の中にストックしていたからこそ、細部のディテールにまでご主人のストイックさが滲み出るのだ。ディテールにこだわった箇所はもちろんたくさんあるが、ありそうで無かったデザインで言えばキッチンの腰壁だろう。他のほぼ全てはご主人主導のもとで進んでいったリノベーションだが、キッチンだけは奥様の要望を存分に取り入れた。「完成した今でもかなりのスペースを割いたなーと思っています。でもやっぱり使いやすいですね。」と控えめに語る奥様。キッチン本体はシステムキッチンを使用したが、周りの腰壁は完全にオリジナル。また、部屋の中で圧迫感を感じさせないために平均よりも10センチほど低い約75センチの高さを採用。背が低い奥様への配慮と、意匠面での統一という両方の側面を兼ね備えた。M邸でアクセントカラーの役割を果たすブラックカラーは、カウンターのフレーム部分に取り入れ、素材はアルミを使用し、どこかヴィンテージ感も漂うヴィジュアルに。ベニヤの天板と合わさることで金属特有の無骨さも緩和され、ご夫妻のセレクトした家具とも馴染んでいるのがわかる。「このフレームのアイディアはデザイナーさんからの提案でした。全体的にシンプルな印象の空間ですが、要所要所ブラックでアクセントをつけることで統一感が出ていて気に入っています。」とM夫妻。居室空間全てにしきつめたフローリングは無垢のオーク材。これに少しだけ深みを持たせるようオイルで着色したオリジナルのフローリングだ。その色といい、キッチンのモルタルやアルミ、そしてアクセントカラーのブラック、どれをとっても少し“重さ”を感じる素材や色合い。それなのにM邸にはどうしても“軽さ”を感じてしまう。空間を俯瞰して見たときに浮かぶように現れるガラスの存在や、余白を残した家具のレイアウト。そして余計なデザインが排除された直線的な空間デザイン。きっとそれがご主人の「カッコ良い家」のためのディテールへのこだわりなのだろう。
一番心地の良いバー
引っ越して通勤時間が格段に減ったので、家でゆっくりする時間が増えたというM夫妻。「とにかく家に帰りたいと思うようになりました。」とご主人。平日は奥様の手料理で2人で晩御飯、休日は昼間は出かけ夕方には帰宅してお酒を飲むのが楽しみだと言う。料理は奥様だが、お酒を作るのはご主人の役割なんだとか。ビールから始まり、ワイン、スピリタスと徐々に強いお酒へと移行。スロージャズをスピーカーから流しながら、眠くなったらすぐに寝室に直行できるこの環境は「一番好きな飲み屋さんが出来上がったという感じですね(笑)。」とお2人。ご主人に料理はされないのですか?と質問すると「しません!料理をし始めてしまうと、スパイスだ調理道具だとまたこだわってしまうので手を出していません。」とのアンサー。納得の回答に少し笑ってしまった。部屋の至る所に飾られたセンスの良い写真。鮮やかでシンプルな空間にとても映える。「実は私が撮影したものなんです。ほとんどがiPhoneで撮ったものなんですよ。」と奥様。カメラに凝っていた時期があったのだと言うそのセンスは、プロ並みでスタッフ一同驚いた。額はもちろん、アクセントカラーのブラック。多分この家は、お2人の持つ軽やかな空気感とストイックさが表現されたブラックが、そのまま空間にスッと現れているんだろう、そう感じた。