まるでヨーロッパの古いホテルのような、クラシックテイストな部屋。
ヘリンボーンとマットブラックが調和する空間には、穏やかでゆったりとした時間が流れていました。
思いがけない運命の出会い
M夫妻と、来年の春から幼稚園に通う息子さんの3人家族が暮らす宮崎台のとあるマンション。夫妻が家の住み替えを検討し始めたのは、今のお部屋が竣工するおよそ2年前でした。生まれたばかりのお子様が幼稚園に入る前までに、当時住んでいた賃貸から引っ越す考えだったというお2人。最初から新築は視野に入れず、リノベ済み物件か中古物件を買ってリノベーションのどちらかを考えていたと言います。「リノベーション」という言葉への認識は漠然としたものでしたが、まず手始めに、不動産屋さん1件とnuリノベーション(以下nu)の相談会に足を運んでみたんだそう。その時ご主人は今のお仕事をスタートさせたばかり。物件を探すにしても、ローンの兼ね合いで今すぐに動き出すことが難しいと分かり、一度物件探しをストップさせました。それから1年が経過し、「そろそろ動き出そうかな」と思っていたちょうどその時に1年前に相談会を担当したnuの仲介アドバイザーから連絡が入り、そのまま後日物件の内見に向かうことになったと言います。当日はご主人がチェックしていた物件と、仲介アドバイザーの勧める物件を見て回ることに。最終的に決めたのは宮崎台にある築23年のマンション。こちらは仲介アドバイザーの紹介でしたが、ご主人も以前から物件仲介サイトで気になっていた物件だったんだそう。実際に訪れてみると、外観の綺麗さ・金額・駅近であることなど、夫妻の条件を見事にクリア。物件探しには時間がかかっても仕方ないと考えていたというM夫妻。運命の出会いは思いがけないほどすぐさま訪れ、しばらくは「こんなに簡単に見つかって良いのかな?」と疑ってしまうほどだったんだそう。住んでからしばらくたった今、やはりここが正解だったと思えると言います。
合理的な住まい
シックで整然とした雰囲気のM邸。デザインを考えるに当たって夫婦でPinterestなどを活用したそうですが、共通の好みは決まってクラシックなテイストだったと言います。近頃リノベーションの事例ではマンション購入時の状態より間仕切りを減らしリビングを広くとるケースが多いですが、こちらのお宅は間取りの変更がほとんどありません。「合理的なデザインにしたかったんです。」と話したM夫妻。ただただ広く開放的な空間を望むのではなく、それぞれの場所に意味があり、使い勝手まできちんとこだわった設計を希望しました。「仕切りを自由にできるリノベーションのメリットは活かせてないかもしれません。それよりもリビングが美しく見えるようにしたかったんです。」そう話すように、寝室・子供部屋・WICをしっかりと確保することで、家族で多くの時間を過ごすリビングにモノが溢れないようにしているんだとか。こだわりのインテリアがショップのように並ぶ空間には、非日常な空気を感じます。中でもキッチンは特に美しい仕上がりです。腰壁はリビング全体のヘリンボーンフローリングが際立つようブラックをチョイス。奥様の意見が全面的に反映されているというキッチンですが、形が特徴的なレンジフードは特にお気に入りなんだそう。奥の壁に梁があることで設置できるものが限られるなか、nuのデザイナーが探し出したというブラックのレンジフードはママ友にも評判がよく、たびたび褒められると言います。壁側の棚はシンプルに、腰壁側の収納は使い勝手を重視して設計されており、ダイニングテーブルに座ってキッチンを見たとき、そこはまさに絵になる美しさです。
はじまりは「内窓」
クラシックなM邸のテイストを凝縮したような、美しい洗面台。きっと特別なこだわりがあるのだろうと思ってお話を伺うと、「こんなに洗面台に凝る予定じゃなくて。全ては内窓が始まりなんです。」と気になる答えが返ってきました。詳しく伺うと、お2人がリノベを始める時から必ず取り入れたいと思っていたのがリビングの内窓。窓を設ける時、リビングからみた向こう側に何が見えたらいいか、何を配置するのが最も収まりがいいかを、ご主人が図面を引いて夫婦で相談したと言います。最終的に決定したのが洗面台を配置すること。黒枠の窓から、ブラックのタイルと丸い鏡が覗く仕上がりになりました。革のフレームが印象的なGUBIのアドネミラー。いずれ引っ越すことを考えてこれまではなかなか気に入った家具を揃えられなかったというM夫妻ですが、鏡や照明など、こだわりのインテリアをリノベと同時進行で揃えたと言います。また、洗面の美しさを保つため、洗面ボウルの下の扉の中にも収納を確保。加えて洗面台を廊下側に出したことで、もともと洗面があったお風呂場近くの場所に新たに収納を設けることができました。下着類はここに、衣服はWICにと、二つの収納でお風呂の時や朝の支度の時の動線もスムーズになったんだそう。内窓からはこだわりの洗面台が覗き、洗面のあった場所に収納が入り、その収納によってWICがすっきり!…と、内窓から始まったゾーニングで色々なことがうまく収まったと言います。
時代に惑わされない美学
お2人ならではの想いで、自分たち家族のために考えて作られた家。家族の暮らしにフィットした住み心地と、心から好きだと思えるテイストが融合した空間が誕生しました。近頃リノベーションで流行りのラフな空間ではなく、海外の歴史的なホテルなどのイメージを参考にしてデザインを考えたというお二人。キッチン腰壁に凹凸をつけるモールディングという技法や、マットブラックの扉に付けられたヴィンテージライクなゴールドのパーツがそれを表現しています。流行にとらわれない重厚感を感じるシックなデザインが空間全体に行き渡ったこの空間は、2人にとってどこよりも安らぎを感じられる場所。取材当日、M邸の目の前では新築マンションの工事が行われていました。「外観は綺麗で素敵だなって思うんだけど、チラシをもらって中の雰囲気を見た時に、もう普通のマンションには住めないなって思いました。」と奥様。続けて「住んでいるだけで気分が上がるのは大事!」と話します。使い込むうちに味が出る革製品のように、本当に素晴らしいと思うデザインのものを一生かけて愛し続ける。そんなお2人のスタイルが形になった空間は、どれだけ時間が経っても衰えない魅力を放つでしょう。