天井の躯体表しとモルタルキッチンが調和して、インダストリアルだけどどこかやさしく柔らかな空気が漂うこのお部屋。ファミリーが多く集う賑やかな街で暮らす、笑顔溢れる家族を取材しました。
変わらない景色
お子様が生まれたことでもともと住んでいた賃貸マンションを手狭に感じ、引っ越すことを決めたK夫妻。ご夫婦ともに、大きな買い物だからこそ気に入らないものを妥協して購入したくはないと感じていましたが、ポストに入っている新築マンションの広告などを見ても、万人受けするありきたりな間取りや雰囲気がどうもしっくりこなかったと話します。そんな時に訪れたリノベーションのきっかけは、奥様のご友人でした。ご自宅をフルリノベーションされていたそのご友人。家族で遊びに行った時、ご友人家族の好きなテイストが100%反映された空間を目の当たりにして「こんなやり方もあるのか!」と感じたんだそう。物件探しからリノベ会社に依頼することを決め、3社ほど相談会を回ったというお2人。ジャンルに捉われない施工事例を見て「自分たちの思い描いているものが叶えられそう!」と感じたというnuリノベーション(以下、nu)でリノベーションすることを決めてくださいました。物件探しを始めた当時、職場が築地市場にあったご主人ですが、今は場所を移して豊洲で勤務されています。物件探しのポイントはご主人の職場からの近さと、子育てをしやすい周辺環境であること。今住んでいる南砂町の周辺はショッピングセンターや小学校が近くにあり、ファミリー層も多いことが大きな魅力でした。決め手はバルコニーからの眺望。大きなマンションが多くならぶエリアですが、この物件のお隣は神社。「nuのアドバイザーさんに、『神社が取り壊されてマンションが立つことはないから今後もこの眺望は守られます』って言われて、それは大きいなって思ったんです。」と話す奥さま。この神社では夏になるとお祭りが行われ賑わいをみせると言います。「内装はリノベでどうにでも出来ると伺っていたので、自分たちが暮らしていく環境を重視してここに決めました。」とご主人。スカイツリーが見える東京の空を切り取った気持ちのいい景色は、これからもずっと変わらずにそこにあるものだと感じられました。
「すっきり」がキーワード
「必ず叶えたい要望はありましたか?」と伺うと、揃って広いリビングと答えたK夫妻。「私も主人も、実家では常にみんながリビングにわいわい集まっていることが多くて。それなら個室を最小限の割合にして、そういうスペースをとにかく大きく取りたいって思ったんです。」と話します。豊洲で働くご主人は、深夜に家を出て夕方頃に戻るという生活。以前暮らしていた家は奥様と息子さんが寝ている部屋を横切って家を出る必要があり、何かと不便に感じていたんだそう。生活リズムの違いは家づくりの大きなポイントにもなりました。広いリビングと、2つの違った生活リズムをうまく共存させること。どちらの要望も叶えるために考えられたのは、玄関すぐの場所にご主人の寝室とWICを作り、残りの部分は半個室のような子供部屋とLDKが合わさった大きな空間にすることでした。リビング側のドアのない個室は大きなLDKの開放感を損なうことなく、木のルーバーでオープンに仕切られています。廊下と子供部屋の両方からアクセス可能なWIC。こちらはデザイナーからの提案で、WICと子供部屋の間はカーテンで仕切るアーチの入り口になっています。「ドアをなるべく減らしたかったのも、とにかく空間全体をすっきりさせたいっていうのがあって。」と奥様。リビングの生活感をなるべく隠すためキッチンの収納棚を全て目線より下に設けるなど、「すっきり」を叶えるためのきめ細やかなこだわりが随所に光っています。キッチン横の壁にはスイッチプレートなどがまとめられた場所が。ここをニッチにしたのは奥様の提案で、生活感が出てしまいがちなスイッチ類もすっきりと収められています。
ふたりの足し算
無垢の床は奥様が譲れなかったポイント。色味や節の有無に加えて、手触りまで数多くのサンプルを見比べながら悩みに悩んだんだそう。そうして決められたオイル塗装のパインフローリング。ナチュラルで優しい雰囲気のフローリングとは対照的に、天井は無骨でクールな印象の躯体表しで仕上げられています。こちらは解体工事の後に躯体の状態をみて、K夫妻がお2人で悩んだ挙句塗装しないことに。「あんまり女の子らしすぎる雰囲気は私も好きじゃないんですけど、壁や天井は主人の好みも踏まえて無骨で男っぽい感じにしました。」と話す奥様。奥様の求める「すっきり」と、ご主人が好みだというインダストリアルな雰囲気は、この空間の中でうまく調和しています。そんな奥様の言葉に対し「それでも僕が提案したのはここだけですよ。」とご主人が笑いながら話すのは、玄関の壁に飾られた水槽について。玄関と寝室を隔てる壁には、ご主人の愛する亀が住む水槽が壁に飾られた絵画のように見える仕組みがありました。裏側が気になって寝室の方から覗かせていただくと、ご主人の本棚の一段が水槽のためのスペースになっていることが分かりました。ベッドと大きな本棚で構成されるシンプルな寝室のなかで、水槽を通す玄関からの光はご主人の寝室をキラキラと照らしていました。
足していくハコ
以前までカフェで働かれていたという奥様。引っ越してきてから、当時の仕事仲間を呼んでパーティーをしたんだそう。「クリスマスの時期で、これまでほとんどやらなかった部屋のデコレーションをしたんです。自分が考えて作った空間だから理想通りの仕上がりになってリノベーションしてよかったなって感じました。」と話します。カフェで働いていた当時のご友人からも「お店みたい!」との声が上がったんだそう。デザインが決まるまでのことを振り返って、「夫婦で喧嘩もしましたし大変なことも多かったんですけど、好きなことを考える時間だし楽しかったです。」と話す奥様。その言葉にご主人も笑顔でうなずきます。2人の好みを組み合わせたり、引き算したり。そうして出来上がった空間に、今は息子さんの絵本やおもちゃの明るく賑やかな彩りが加えられています。これからは、家族3人で。「すっきり」とインダストリアルが調和するハコに、家族の思い出を足していきます。