無塗装の無垢フローリング、コンクリート現しの天井、ざっくりとした塗装の白いカベ…素材本来の持つ魅力を存分に味わえる、二人のシンプルな家。
場所も素材のひとつ
東京都渋谷区。駅周辺の賑やかな街を抜けた穏やかなエリアに、Yさんのお宅があります。Y夫妻は、グラフィックデザイナーのご主人と奥様の二人暮らし。 お二人は結婚をきっかけに、家探しをスタートしました。 もともとは別々の賃貸に暮らしており、住みながらももっと空間を自分の好みにしたいと考えていました。 その気持ちの強さは、家探しにおいて決められた仕様の新築マンションを選ぶのならば、賃貸のままの方が良いと思っていたほど。 インターネットで色々と調べてみたところ、中古マンションでもリフォーム済のところは高く、それならば物件探しからお願い出来る会社を探そうと決意。数社のHPを見て、一番相談しやすそうな印象を受けたnuの相談会に申し込みます。物件は、これまでも住んでいた城南エリアを希望していたY夫妻。 そして、70㎡以上で、明るい部屋だということを条件に物件探しをスタートします。何回か内見を繰り返し、自分たちにとって物件そのものだけではなく周辺の地域も重要だと気がつきました。 内見予定以外の物件にも予め自分たちだけで行ってみて、周辺地域を歩いてみたそう。そこで、周辺の雰囲気も含め気になるかどうかを判断し内見に挑んだという徹底したこだわり派のY夫妻。「これから実際に住む場所なので、自分の足で実際に歩いてみる感覚は重要です。 この方法は、これから物件探しをする人にはオススメしたいですね」とニッコリ。最後に見たこの物件は、内見時には手つかずの状態で少し驚きました。「前に住んでいた方が出て行ったまま、という感じでしたが、全て壊すという前提で見ることが出来たので今考えるとそういう状態で良かったと感じています。」とご主人。内見の際にも、アドバイザーから「ここは壊せます、ここはダメです」と具体的なアドバイスがあったので、よりイメージがしやすかったのだとか。「自分たちで実際に歩いてみた周辺の雰囲気が、渋谷区にも関わらず周りに商店街があったりと、アーバンチックじゃなくどこか田舎のような印象を受けたのがここに決めようと思ったポイントです」とのこと。周辺の環境が最終的な決めてとなり、日がたっぷり入る穏やかなエリアに位置する、築40年、86㎡のこちらの物件を購入しました。
素材で楽しむつくり方
当初Yさんが絶対にやりたいと考えていたことは、オリジナリティ溢れる大きなキッチンをつくるということ。料理が趣味のご主人は、とにかくキッチンへと情熱が傾いていました。 また、今持っているオレンジ色やパッチワーク柄のカラフルなインテリアに合う、シンプルな空間にしたいとイメージしていました。 素材感があり、ずっとそこにあったかのような空間です。そのため、空間自体が「何テイスト」と表現出来ないような、プレーンで飽きの来ないイメージにしたいとデザイナーに伝えていました。それらを踏まえてデザイナーがお二人に提案したのは、「SOZAI」というコンセプト。 どんな色にも調和する素材をベースに、その素材の深まりを時の経過と共に感じていける計画です。 プレゼンテーションを受け、ご夫妻はさらにリノベーションの可能性が広がったと言います。 「キッチンの位置が自由に動かせたり、自分たちが思いつきもしなかったプランが目の前に広がり、どんどんイメージが膨らんできましたね。」とご主人。そこからは毎回の打合せの度に、デザイン書や洋書をリュックに詰め込んでイメージの共有をしていたY夫妻とデザイナー。 出来上がった空間は、シンプルながらこだわりが随所に感じられる2LDKとなりました。 主役のキッチンを中心に、コンクリート現しの天井や白く塗装した壁、そして無塗装のままの唐松のフローリングが全て調和し、統一感のある印象を受けるデザイン。 モルタルの土間をあがってすぐ左は、木の引き戸が続くホール。全ての引き戸を開けると、2つ続きの部屋が1ROOMのような空間になります。 入ってすぐ左手はフリースペースとして趣味の自転車やソファを置き、奥のWICにはご主人の洋服を収納しています。 更にその奥のスペースがお二人の寝室。そして反対側のバスルームには、洗面台、シャワールーム、そして浴室を同居させました。 ご主人の好きな洋書からインスピレーションを受けた、全面白いタイル張りのバスルーム。この出来にはとても満足していると言います。 そして、リビングに繋がるドアを開けると、いよいよご主人こだわりのキッチンが登場です。ご主人の好きな料理を存分に楽しめるように造ったキッチンは、天板が木、側面はモルタルという素材を組み合わせたオリジナル。元々欲しいと思っていた、ステンレスの珍しい置き型タイプのシンクとコンロ(TOYOキッチンのPUTTON)を使うため、幅は2m60㎝、奥行きは1m20㎝とかなり大きめのサイズを計画しました。特にこだわったのは、木の天板。 無機質なステンレスとの組合せでCOOLかつあたたかみのあるデザインに仕上がりました。 また、ベイマツで造作したシェルフをキッチンと通路の間に置き、緩やかに空間を間仕切ることでワークスペースも確保。これにより、スペースを仕切りながらも、お互いの存在を感じられるような計画となりました。 「この本棚は、気が向いたときに中身を色々と変えることが出来て楽しいです。 今日も取材があったので、急いで見栄えのするような本棚をつくりました(笑)」と楽しそうなご主人。 また、ベイマツを使って造作したこの棚は、まだまだ樹脂が出てくることがあるそう。それも素材を楽しむひとつのポイントとして楽しんでいるお二人。 「諦めなくて良かったのはキッチンです。一時は予算オーバーになりそうでしたが、キッチンにはこだわって良かったと感じています。 どこか削ろうかと(奥様に)相談しましたが、「そこは削るのをやめなよ。やめちゃだめだよ」と言われて。」とご主人。 Y夫妻は、何か新しくインテリアを購入する際には、ほとんどご主人が「これを購入しようと思う」と提案し奥様からGOサインが出る、という流れ。「たまに、私が飾りたい小物なども提案しますが、ほとんどこだわりはありません。 好みも大体似ているので、あとはOKかNGかですね(笑)」と笑顔が素敵な奥様。 今回のキッチンに関しても、ほとんどはご主人の意見で決めましたが、奥様も落ち着くお気に入りの場所となったとのこと。
素材に馴染む暮らし
完成後、初めて新しい我が家に足を踏み入れた時には「広くて明るくなったと思いました」と奥様。 「床の色が気に入っていて、これだけでも元の状態とかなり印象が違います。」とご主人。床の無垢唐松のフローリングは、薄めの木肌とはっきりとした木の節が印象的な素材感。 朝は、日差しがたっぷり入るので自然と早起きになり、二人で朝ご飯を食べる習慣がついたとか。 また、普段はご主人が料理を作ることの多かったY夫妻ですが、「このキッチンがあることで、より一層、食に興味を持つようになりました。 良い出汁がとれそうなものに目がいったり、実際に使ってみたくて買って帰ったりしています」と奥様。キッチンの天板を大きめにつくったことで、二人での食事ならそこで済ませてしまうことが多いのだとか。 「ここは本当に便利です。ダイニングテーブルは、友人が来た時にしか使わなくなりましたね(笑)」とお二人。 来客があるときには、オーブンもガスコンロもフル稼働で、ご主人が腕によりをかけてフルコースを振る舞うそう。 「二人だとあまり量を多く作れない分、その時が一番幸せそうな顔をしています」と奥様。男性の友人が遊びに来た時には、皆が口を揃えて「このキッチンなら自分も料理をしたい!」と言って帰るのだとか。夜中、静かな住宅街に灯りが一つ。簡単な夜食と美味しいお酒を肴に、ソファに座ってオリンピックをLIVE観戦するお二人の影。 美味しい料理の味や薫り、二人の生活の色が素材に馴染み、これからもっともっと味わいを深めていくことでしょう。