あたたかみのあるケヤキフローリングに、3m超えの真っ白なキッチン。ご主人が生まれ育った家に新たに刻まれる、家族3人の「風通しのよい」毎日とは。
共感するプロセス
横浜市のとある駅から徒歩数分、抜群のロケーションに建つマンションに住むYさんご家族。ご主人のご両親が定年を機に地方移住することになり、生まれ育ったこの家を引き継ぐことになりました。築25年の経年劣化や傷みがあったため、いっそ全部新しくしようと思ったのがリノベーションのきっかけ。奥様は感性の赴くままに、インターネットやSNSで大量のリノベーション会社をチェックしていったそうです。
「大手から中小企業まで様々な事例をチェックして、いいなと思った15社くらいに資料請求しました。でも、ちゃんとした返事が来たのは数社だけで、その中で最初にお話ししたのがnuリノベーション(以下、nu)さんだったんです。その帰り道に夫と『対応が早いし、押しつけがない。私たちと重視しているポイントが似ている気がして、すごくいい会社だね』と意見が一致して、もうnuさん以上の会社はないだろうと、その日に依頼を決めました」と奥様。設計・施工からアフターフォローまで一貫して任せられること、リノベーションだけでなく不動産に関わることまで包括して相談できることも、安心して長く付き合える確信につながったそう。
また、ご主人はnuスタッフのものづくりに対する考え方にも強く共感したと言います。
「私がデザインをつくっていくプロセスに似ていたんです。最初に、家に限らずどんなものが好きか、趣味や趣向、我々の背景をヒアリングしてくれて、具体的に窓やロフトが欲しいと要望を出してからは、なぜそれが必要なのか、それを通してどんな生活をしたいのか、一つひとつ丁寧に深掘りしてくれて。おかげで、『私たちって本当はどういう生活がしたいんだっけ』と夫婦でじっくり話し合えましたし、色んな意味で勉強になりました。それと、当時娘がまだ3歳だったのですが、nuの皆さんがいつも『あっちのソファでお絵かきしようか』と面倒を見てくれて。おかげで集中して打合わせできて、めちゃめちゃ助かりましたね。随所のささやかなアプローチが心地よくて、こちらも『迷惑をかけないように、次回までにちゃんとコレを考えていこう』と思えました」と、ご主人は振り返ります。
環(めぐ)る家
Yさんが望んだのは、物理的にも精神的にも壁がない「風通しのいい家」。具体的には、きちんと生活のイメージがわく間取り、たっぷりの収納、子ども部屋を希望していました。
「最初にまったく異なる3案を出していただいたのですが、WICが欲しい、娘の部屋は一番広く、お風呂も最大限確保、パントリーをつけようなど、色んな要望を出していったら、10案くらいにまで広がりました。もちろんどれも魅力的でしたが、欲しいものがすべて入っていて、その上で慣れ親しんだ以前の間取りに近かったこの形に着地しました。生活のイメージがスッとわいたんです」と奥様は振り返ります。
この家の特徴は、ロフト。やりたいことに対して床面積が足りない“マンションリノベあるある”を、見事に解決しています。上部は寝室、下部は納戸、手前にワークスペースも設けて、コンパクトながら多機能な一画。ロフト階段に懸垂棒を、ワークデスク横の壁にはご主人のギターフックを設置し、便利が詰まった空間に仕上がっています。
また、風通しのいい家というテーマが特に反映されているのが、LDKに設置したフルオーダーメイドの引き戸。波のようなデザインガラスは、視線を遮りつつ人の気配と光を通します。取っ手はつけずに指を引っかける溝を彫り込んだことで、すっきりとした印象に仕上がっています。
LDKのデザインは、グリーンとアートが映えるシンプルなテイストに。手触りのある白と深みのあるダークブラウンが織りなすシックな空間が広がります。
「どんなものでも受容できる、シンプルな佇まいの箱であってほしかったんです。今好きなテイストを20年後も好きかどうかは分からないけど、箱がシンプルなら家具やアートは替えられますから。3m超えの真っ白なキッチンは挑戦でしたが、やっぱりグリーンが映えていいですね」と、奥様はキッチンを眺めながら微笑みます。
懐かしさを感じさせるケヤキフローリングには、バックストーリーが。小さいサンプル板から受ける印象と、実際に床に敷いた印象はまったく違うからと、設計デザイナーが同じ床材をつかっているレストランに連れて行ってくれたのだとか。実際に住んでみて「なんか違った」がなく、大満足だと言います。
「常に提案型でいてくれたのがありがたかったですね。やりたいことに対して予算や面積が足りなくても、すぐに却下せず『一度考えてきます』と持ち帰って、いくつか代替案を考えてきてくれて。予算の都合で何かを諦めようとすると、『そこは削っていい』『こっちは絶対削らない方がいい』と的確にアドバイスしてくれたし、とことん親身に寄り添ってくれて素晴らしかったです」と奥様。調整はしても妥協はしない、一生モノのものづくりにふさわしいプロセスを踏めたようです。
また、ダイニングテーブルにはこんなエピソードが。「新調するつもりはなかったのですが、nuさんが提案してくれたこのCalligaris(カリガリス)をものすごく気に入ってしまって!天板がセラミックだから傷つきにくいし、熱い鍋も置けるし、シンプルながらモダン。『なんで私の好みが分かったの?』って驚きました」と、奥様は笑います。
FILMの記憶
この家に住んで1年9カ月、住むほどに感動があると言います。
「特にお風呂は5cm単位で最後までこだわった甲斐がありました。子どもと一緒に入ってものびのび足を伸ばせて、リラックスできます」と、奥様は笑います。プランニング当時は3歳だった娘さんも、今では6歳に。絵画教室に通うほど絵が好きで、自室にこもって創作に没頭しているのだとか。
「娘の部屋はもともと私の部屋で、天井には以前の押し入れの溝が残っているんです。タバコで黄色くなった壁紙やギターをぶつけて傷付いていた壁が、まっさらに新しくなって、新しい空気になって、部屋もうれしいと思いますよ。父もすごく驚いています」とご主人。家族と家の歴史を感じられるのは、実家継承リノベならではの醍醐味です。
特に幸せを感じる瞬間を尋ねると、「たくさんありますよ。朝起きてブラインドを開けるとき、あとは夕食後にLDKで一息ついているとき。一つの空間で各々の好きなことをしてリラックスしている、その状態が心地いいですね。この空間はくつろぐことを受け入れてくれているので、『今日も終わった~』とリセットできます。自分たちでつくった家って、こういうことなんですね」と、ご夫婦は目を輝かせます。
設計デザイナーがY邸に贈ったコンセプトは『FILM』、それに添えたサブコンセプトは環×LOFT。奥様の趣味であるカメラからヒントを得て提案したこのコンセプトには、フィルムに思い出を焼きつけていくように、この風通しと環りのいい空間に家族の日々を刻んでいってほしい、そんな願いがこめられています。
「ヴィンテージ風や北欧風といったデザインにフォーカスしたコンセプトではなく、住まう人の思いをコンセプトにするロマンチックさに感動し、nuさんと一緒にリノベーションできたことに改めて喜びを感じました」と、当時を振り返るYさん。この先もフィルムに焼き付けた思い出と共に、家族の幸せな時間が環り続けていくことでしょう。
Interviewer & text 安藤小百合