リズミカルな市松貼りの床に配置されたのは、様々な国で作られた、ストーリーのあるインテリアたち。“好きなモノを並べただけ”なのに、そこに置かれたすべてが絶妙に調和した、『NO BORDER』なお宅にお邪魔しました。
暮らしも街も変える
小高い丘の上に立つ見晴らしの良いマンション。緑に囲まれた気持ちのいい部屋がH夫妻のお宅です。以前は江東区にある約30平米の賃貸に暮らしていましたが、リノベーションを機に横浜市へとお引越し。「30代になるまでに家を買いたい!と思っていて、ちょうど29歳で動き出しました。アパレルの販売員をしているんですが、歳を重ねていくごとに暮らしの方にも興味が出てきて、家具や食器を集めていくなかで、リノベーションにも憧れていました。おしゃれな家に住んでいる先輩や同僚の中にリノベした人がいたことも大きかったですね」と当時を振り返るご主人。リノベーション一択で情報収集していた所、書店でたまたま手に取った雑誌に載っていたnuリノベーション(以下、nu)の事例が目に留まり、そこに書いてあったメールアドレスに直接コンタクトを取ったのだそう。それから個別セミナーへ参加しました。「実際に来社して色々な話を聞きましたが、仲介アドバイザーの方の説明に不明瞭な点がなく、信頼できるなぁと思いました。事例の雰囲気も気に入っていたので」とH夫妻。そしてnuに依頼することを決め、物件探しを開始。当初は、住み慣れているという理由から江東区近辺で物件を探していましたが、特段エリアには固執していなかったというお2人。その代わり、将来家族が増えても対応できるよう、予算内で出来るだけ広い物件を探していました。そして都内でも数件内見したのち、最終的に購入したのは、戸塚のとある物件。都心からは離れたものの、80平米超えの十分な広さと、緑豊かな周辺環境は子育てにも適していて、まさにH夫妻にぴったりだと考えたアドバイザーからの提案でした。「この眺望やロケーションは郊外ならではだと思います!」とご主人。物件自体は気に入っていたものの、当初は土地勘の無い場所での生活に少し不安もあったそう。しかし、実際に暮らしてみるとそれは杞憂に過ぎなかったようです。「全く馴染みの無いエリアでしたが、住めば都って本当ですね。駅前は店も多いし、鎌倉近辺に好きな食器屋さんが多いので、以前より近くなって嬉しいです。あと、アドバイザーの方が“戸塚の良いところ”をリストアップして送ってくれたのも心強かったですね」とお2人はにっこりと笑います。
国境を超えた調和
「好き嫌いはあるけれど、明確にこのテイストにしたい!というものが思い浮かばなくて…。なので最初のデザイン打合せには、雑誌から切り抜いた好きな空間をコラージュしたスクラップブックを持参しました。そこからデザイナーさんが私たちの好きなテイストを汲み取ってくれて、3案提案してくれたんです」とH夫妻。プレゼンテーションで提案された3案について、夫婦それぞれ好きな案を「せーの!」で指を差したところ、2人の意見が一致したのが、市松模様の床が印象的な今の住まいのベースとなる空間でした。床の張り方でちょっぴりレトロな雰囲気を掻き立てながらも、夫妻が集める世界各国の家具や食器、小物を飾った時に調和するような国境や文化を超えた世界をイメージして、家具の映えるシンプルな空間を創り上げていきました。
H邸に一歩足を踏み入れると、玄関からそのまま開放的なLDKが広がります。最大限のスペースを割いたリビングは、木の温かみが全面に感じられる無垢の床。2人が「せーの!」で指差した市松模様の床はどこか懐かしい雰囲気を放っています。真っ白な壁と天井が床の個性を引き立たせ、「裸足で歩くと、とても気持ちよくて。やっぱり本物の木を使って良かったです」とにっこり笑う奥様。リビングから1段高くなったステージのようなキッチンは、段差で緩やかにシーンをゾーニング。クールなステンレス製のキッチンはご主人たっての要望で、「木の温かみがあるリビングとはメリハリをつけたくて」と、オールステンレスで造作しました。そして、キッチンの隣には横幅3m超えの造作の食器棚が。ここにはご主人が趣味で集めている民芸品や和食器がずらりと飾られていて、まるでショップのよう。「4.5年前から和食器を集めています。この食器たちを愛でれるようなオープンな収納が欲しくて、造作してもらいました。やっぱり好きなモノが常に見えているっていいですね!料理をする時にもサッと取り出せて、便利ですよ」と嬉しそうなご主人。料理好きのH夫妻は、2人でキッチンに立つことも多いそうで、キッチンから見えるこの清々しい景色を眺めながら、料理する時間を楽しんでいるのだそう。
ステージのようなキッチンに立って空間を見渡すと、一際目を引くのが寝室の内窓。落ち着きのあるブラウンの木枠で造作した内窓は、空間のアクセントに一役買っています。「寝室には元々窓が無いので、採光を確保する目的で取り入れました。リビングを広くとるために寝室は必要最低限に抑えたのですが、内窓があるおかげで圧迫感が軽減できて心地よいです」とお2人。そしてそのまま寝室のとなりに目を向けると、大人1人が寝転べるくらいの畳スペースが。コミカルなアートが置かれ、モダンな雰囲気を放っています。「和室が欲しかった訳ではないんですが、畳があればちょっと横になったりできて良いかも!と思って作ってもらいました。昼寝とかするつもりだったんですが、今は朝のストレッチスペースとして使っています(笑)」とご主人。畳スペースに置かれたアートをはじめ、H邸にはユニークな民藝品やアジアをはじめとする海外生まれの家具がたくさん。旅行の際に買った物もあれば、普段ふらっと入った雑貨屋で集めた物もあるのだそう。「かれこれ4.5年くらい前から集めはじめました。“〇〇系のインテリアにしたい”とかではなく、フィーリングで良いなと思ったアイテムを置いています。それが自分たちらしさかなと思って」と話すご主人。H邸にある家具はほとんど前の家から持ってきたもので、時間を掛けて少しずつ集めた家具たちを大切にしています。ダイニングテーブルは栃木県の益子にある古道具屋でオーダーした一点物で、再利用したちゃぶ台の天板に、アイアンの脚を付けたモダンな仕様。奥ゆかしい市松模様の床も相まって、まるで前からそこにあったかのように空間に馴染んでいます。ダイニングチェアはイギリス生まれのアーコールチェア。そとなりにはインドのキリムに、カメルーンのバミレケ族の椅子…夫妻の審美眼によって選ばれたインテリアたちが国境を超え調和したその光景は、まさにH邸のコンセプト『NO BORDER』を物語っていました。
愛でて、肥やして、楽しむ
リノベーション後は料理好きも高じて外食が減り、家で過ごす時間が長くなったというH夫妻。先日は友人を招いて、広島焼きパーティーをしたのだそう。そして取材も終盤に差し掛かった頃、これから手に入れたいアイテムなどはありますか?と尋ねてみると、「下段にまだ空きがあるので、食器はもう少し増やしたいですね!というより自然と増えていってしまいそうですが(笑)」とご主人。そして、「あと、コットが欲しいです!アウトドア系のベンチみたいなやつなんですけど、それをここに置いたらいいかんじじゃない!?」と、楽しそうに奥様に話しかけるご主人の姿がとても印象的でした。
あえてインテリアのテイストやルールを設けない、H夫妻の『NO BORDER』というスタイル。これからも増え続けるであろう2人の選りすぐりのアイテムたちは、この空間で、どんな表情をみせてくれるのでしょうか。