住み慣れた自宅をリノベーションし、生まれ変わった我が家で始まった新しい日常。家中で健やかに葉を揺らすグリーンとお気に入りのインテリアたちに彩られたワンルームには、澄み渡ったリラクシーな時間が流れていました。
意表をつかれたプラン
扉を開けると目に飛び込んでくる、開放的なワンルームとモールテックスの塊のような造作ベンチ、そして部屋中に飾られた賑やかなインテリアたち。東京都港区の静かな川沿いに佇むマンションの一室が、2年前にリノベーションしたS夫妻が暮らすお宅です。
お二人がご自宅のリノベーションを検討し始めたきっかけは、キッチンの不調。ガスコンロの調子が悪くなってしまい、当初はキッチン本体の入れ替えだけの予定で会社探しを始めたといいます。「いくつかの会社さんに自宅を見ていただき、キッチンだけといっても結局はいろんなところを工事しないといけないことがわかって。年齢的にもライフスタイルが落ち着いてきた時期だったので、思い切って全体的にリノベーションするのもありなんじゃない?と考え始めるようになりました」とご主人。
こうしてフルリノベーションに切り替えて、専門誌などで取り上げられていた会社を中心にリノベ会社探しを進めていったというS夫妻。nuリノベーション(以下、nu)に話を聞きにいったのは4〜5社目だったといい、ご夫婦ともにお酒が好きだということや、片付けがあまり得意ではないので収納は細かく計画したいことなど、ライフスタイルや家に求める優先事項を細かく設計デザイナーに伝えました。「それまでの会社さんでもたくさんプランを出してもらっていたので、どんなプランが出てくるかある程度予想できると思っていましたが、nuさんのプランは全然違っていて。意表をつかれました」とプレゼンテーションを振り返るご主人。
提案されたのは『relaxing』というテーマの空間。S夫妻との会話の中から、堅実ながら大人の遊び心を感じるお二人の空気感を感じ取った設計デザイナーは、66㎡をワンルームとして使うという思い切った提案をしました。「私たちには考えつかないような間取りで。プランを見た瞬間にキュンときたのを覚えています!」と奥様。
こうして、当初は想像もしていなかったという大胆なワンルームプランを選択したS夫妻。お二人の潜在的な価値観を見抜いたnuの設計デザイナーとの家づくりが動き出した瞬間でした。
想像を超えた暮らし
間取りはプレゼンテーション時に提案されたプランから大きく変えず、打合せでは各所の素材や収納計画を煮詰めることに専念したというS夫妻。特に、リビングの壁一面にレイアウトした造作キッチンは「食べることが好き」というS夫妻のこだわりがぎゅっと詰め込まれた空間になっています。
白の面材に、同じく白の人工大理石天板を組合せたキッチンは、どこでどんな動きをするのかを具体的にイメージし、スパイスラックや鍋用の深い収納、食器用の引き出しなど、用途別に収納を細かく設定。「手かけのデザインも極限まですっきりさせたい」と設計デザイナーと仕様を追求し、板の上部がV字にカットされた面材を採用することで取っ手金具を付けずに仕上げました。
ショールームで実物を確認できるシステムキッチンと違い、出来上がるまで完成品を見ることができない造作キッチンを選択することは、期待感が大きかった反面、少なからず不安もあったといいます。「家づくりは初めての経験でしたし、『実際どう仕上がるんだろう』という思いはありましたが、実際に入居してデザイン・使い勝手ともに満足しています!引き出しがソフトクローズだったり、奥までしっかり引き出せるようになっていたりと、全体的に“気が利いているな〜”というのが使ってみての感想で。私たちが細かく指示をしたわけではないのに、使い勝手がよくなるように考えて造っていただいている、その心遣いが嬉しかったというか。nuの施工担当のスタッフさんとも何度かお会いしましたが、とにかく丁寧な方だった印象が強くて」。「入居後、少しくらいアフターサービスを利用するものかと思っていましたが、そんなことも全くなくて」と、この家での暮らしを快適に楽しんでいただいている様子を教えてくださいました。
キッチンとダイニングもちょうどいい距離感だといい、「私は一日中ダイニングで過ごしています。ご飯を作って、ここに座って食べて。リモートワークもダイニングでするし、コーヒーを飲んだりテレビを見るのもここ。とにかく居心地がいいです。移動すると言ったら、隣のソファに座るくらいかな?(笑)」とはにかむ奥様。
休日はご夫婦揃って昼下がりからお酒を飲むのが楽しみだというS夫妻の定番は、一品ずつ軽めのお料理を作ってお酒と共にゆっくりと食べ、少なくなってきた頃にまた一品作るというおうち居酒屋スタイル。「食器が好きでたくさん持っているんですが、以前は出し入れが大変で使いきれていなくて。今は大容量の引き出しがあって、好きな食器にすぐ手に届くようになりました」と、リノベ前から変わらない休日スタイルがよりアップグレードされ、嬉しそうな表情を浮かべます。
また、S邸のアイデンティティとも言えるのが、LDKと玄関の間に鎮座する重厚感たっぷりのモールテックスの造作ベンチ。当初のプランから「ベンチをつくる」ということだけは決まっていましたが、具体的にどんな機能を持たせるか、そのためにはどんな高さに設定するのがいいのか、頭を悩ませたといいます。
最終的に行き着いたのは背もたれ部分の高さが70cmの長方形で、リビング寄りの一角に設けたご主人のワークスペースのデスクトップとシームレスにつながるようデザイン。ベンチ部分は座面が外せるようになっていて、シーズンオフの衣類などを仕舞っているといいます。「実は、今のところベンチとしてはあまり使っていなくて(笑)。植物を置いたり、帰宅時の一時的な物置スペースにしたりしています。玄関寄りの一面は抜け感を出したくて座面の下を空洞にしていただいたんですが、お酒の瓶がシンデレラフィットで!そのつもりで計画したわけではなかったんですが、今は買い置きのお酒をディスプレイするように仕舞っています」。
予想外の使い方は土間スペースにも。「お風呂上がりにベンチでリラックスできるよう、ジムの更衣室をイメージしてベンチ周りの床にサイザルを敷いたんですが、最近はもっぱら土間のキャンプチェアが定位置なんです。なんだか居心地が良くて、本を読んだりスマホをみたり、一日の半分くらいここに座ってることもあります(笑)」とご主人。
ご夫婦ともに在宅ワークに切り替わったことで、ほとんど毎日をこのワンルームで過ごしているというお二人ですが、造作ベンチが緩衝材のような役割を果たし、ダイニングで寛ぐ奥様とも心地よい距離感で過ごせているんだとか。
想いの扉を開く
キッチンや寝室の棚に飾られたインテリアの数々は、旅行先で美術館を訪れることが趣味だという奥様が長い時間をかけて集めてきたものだそうで、「ミュージアムショップが大好きなんです。美術館にいく度にアイテムが増えていくので、統一感が全然なくて(笑)」。ですが、その統一感のなさがシンプルに設えたS邸にはとてもマッチしていて、明るく楽しげな奥様の人柄が現れているかのよう。実はリノベ後に買い足したアイテムはほんの少しで、今までは飾りたくても飾る場所がなく箱に入れたまま眠らせていたものも多かったといいますが、そんなインテリアたちもようやく自分の住処を見つけ、賑やかな隣人たちと肩を並べて心地よく毎日を過ごしています。
インテリアには無頓着だというご主人も「こんなもの飾ってあったっけ?(笑)」とツッコミを入れながらも、奥様の好きな世界観を大切にされているようで、「お互い好きなように選択し、好きなように過ごすのは気持ちがいいですよね。ストレスを溜め合うのは嫌なので。共通の趣味を楽しむ時間と、それぞれ好きなモノ・好きなコトを楽しむ時間を両立できる、この家が好きですね」と取材を締めくくってくださいました。
今まで心に仕舞い込んでいた“暮らし”に対する思いが流れ込み、それが淀みなく凝縮されたようなS邸。そこは、お互いの価値観や自由な過ごし方を尊重し合うお二人の、風通しの良い関係性そのもののような温かさを纏った空間でした。