シングル男性のIさんは約3年前にリノベーション済み物件を購入。インテリアや美術品が好きで、多くの家具を所有していたIさんは“この家具を最大限に生かせる空間で暮らしたい”と思い、リノベーションに踏み切ります。Iさんの求めていたその空間は、一体どのような形となって叶えられて行くのでしょうか…。
愛する家具たちのために
静けさと賑わいのバランスがとれた街、初台。賑わう駅前の商店街を抜け10分ほど歩いた閑静な住宅街にIさんのお宅はあります。以前は東京下町のご実家に住まわれていたIさんですが、そろそろ実家を出て一人暮らしをしようと考え今のお住まいである築32年のマンションを購入。海外生活をしていた時期もあり、リノベーションという言葉に馴染みのあったIさんは「元々、築年数がある程度経っていてそのまま住むのが難しそうな物件だったとしても、エリアや予算などが条件にかなっていればリノベーションをして住もうと考えていました。それで勤務地にもある程度近い場所で予算内の物件を探していたら、ちょうど今のマンションを見つけて。初台は都心に近接してるのに自然もあって落ち着いている雰囲気がとても良いなぁと思っていたんですが、ちょうど気になっていた部屋の空きが埋まってしまっていて。それで他の階に空きがないか探してみたら違う階の部屋が売りに出ていて、しかもリノベ済みの綺麗な状態だったんですよ。だからまずはこのまま住もうと思ってこのマンションを購入したんです。」とIさん。それから約3年が経過。購入時にすでに設備等も交換されていたということもあり、暮らすうえでは特に不自由を感じていなかったものの、無垢材の敷かれた暖かみのある雰囲気やLDにひらけた対面式のキッチンなど生活感溢れる空間はしっくりこない部分が多いと感じていたと言います。それに加えインテリア関係の仕事をしていて、自らも多くの家具を所有していたIさんは“もっとこの家具を最大限に生かせる空間で暮らしたい”と本格的に考えるようになり、リノベーションすることを決めます。それからネットでリノベーション会社を検索し、いくつかのリノベ会社のHPを見比べてその中でも一番気になった事例が多かったというnuの個別相談会に参加。「ネットで検索していた段階からnuさんのことはとても気になっていて。多分HPに掲載されている事例は全て目を通したと思います(笑)!なので実際に相談会に参加したのもnuだけだったし、nu以外のリノベーション会社はあまり考えていなかったですね。」とIさん。それからnuに依頼することを決め、さっそく現地調査、デザイン打ち合わせ、とスムーズに話も進みいよいよリノベーションをスタートさせます。
ギャラリーと呼ぶにふさわしい空間
「以前NYに4年間住んでいたことがあって、その当時から美術品やインテリアが好きだったのでギャラリーには良く足を運んでいました。そこで見たピカピカと輝くモルタルの床や展示品を引き立たせるためのシンプルな空間。決してただのシンプルじゃない、洗練された美しさのある空間に強烈な魅力を感じていました。だからそういう空間をリノベーションで自分の家にも再現できたらいいなぁと思っていたんですよね。」とIさん。早速最初のデザイン打ち合わせで、“ギャラリーのような無機質な空間”にしたいということをデザイナーに伝え、NYで訪れたギャラリーを忠実に再現するためにリビングの床にモルタルを敷き、天井や壁は白で仕上げたいなど具体的なイメージをデザイナーと共有していきます。また、家具だけでなく洋書やガラス製品を飾れるスペースも要望しました。そしてIさんは“ギャラリーのような無機質な空間”を成り立たせるために、パブリックなスペースには一切生活感を出さないよう玄関と廊下にもモルタルを敷きたいという徹底ぶりでした。そんなIさんのモルタルを多く使いたいという要望に対し、機能面でも安心して頂けるよう「モルタルではなくモールテックスという素材を使ってみませんか?」とご提案。モールテックスは、見た目はモルタルと変わらない仕上がりですが性質は遥かに異なり、モルタルに比べて薄塗りでも強度があることやひび割れがしにくいなどのメリットが多い性能に優れた新素材。ひび割れや水に強いという高い機能性を持つモールテックスを使用することで、意匠性だけでなく暮らしやすい空間を創り出し、Iさんの理想を叶えるのにぴったりの素材だと考えました。そしてIさんは、プライベートな寝室はリビングとは雰囲気を変え、休息ができるよう無垢材を敷いた暖かみのある落ち着いた空間にしたいとデザイナーに伝えます。モルタルの風合いをモールテックスで表現し、究極にシンプルな空間を突き詰めながらもモールテックスに微妙な表情を持たせることでオリジナルギャラリーを創り上げる…。そんな空間をイメージしながら設計デザインを進めていきました。それから約3ヶ月の打ち合わせ期間を経て完成したのはモルタルを思わせるグレーと白、 この2色のみで形成されたストイックな空間。玄関扉を開けるとリビングまで一直線に伸びるモールテックスの廊下が現れ、入り口から非日常を感じさせます。その先に広がる約20畳の開放的なリビングは床全面にモールテックスが敷かれ、そこにスイスを中心とした名作家具やアーティストの作品が展示されるように置かれたギャラリーのような空間が広がります。照明はダウンライトを天井に埋め込むことでスッキリとした印象の天井を創り出すと同時に、スポットライトのような効果も演出しました。「リビングの中で一番こだわったのはモールテックスの仕上げですね。ピカピカとした仕上がりにしたかったんですが、綺麗すぎる感じはあまり好きではなくて。ピカピカしてるけど程よいムラも欲しかったんです。どんな感じに仕上がるか楽しみな反面、ちょっとドキドキもしていたんですが、私の求めていた“ピカピカしすぎず、程よくムラを”というのを忠実に再現してくれていてとても満足しています。」とIさん。そしてギャラリー空間を成り立たせているもう一つのポイントは、生活感を感じさせるキッチンが完全に隠されていること。デザインの打ち合わせ段階からキッチンは人の目に触れないようにしたいと考えていたIさんは、キッチンを壁で覆い開放的なリビングの中に1つの箱があるようなイメージをしていたと言います。それを再現するためにキッチンをモールテックスの壁で完全に覆い、そこにニッチ棚を造作しました。「以前の部屋にもキッチンの腰壁にニッチがあったんですよ。そこに小物などを飾っていたんですが、もう少し飾れるスペースを増やしたいなぁと思って1段増やして造ってもらいました。」とIさん。ニッチには洋書や写真集、ご友人のアーティストの作品などがディスプレイされ、いつか訪れたNYのギャラリーで展示品を眺めているかのような気分に浸ることができます。そしてIさんのお宅の中で唯一生活感を感じさせるのは、無機質なLDKとはガラリと違った雰囲気の暖かみのある寝室。「やっぱり寝室は体を休ませる場所なので木の温もりを感じれる空間にしたくて床にはオーク材を敷いてもらいました。」とIさん。全体の壁は薄いグレーの塗装に、WICの壁はアクセントになるよう深みのあるカーキで塗装。トーンの落ち着いた色味でまとめられた寝室は体も心も落ち着きます。WICのデザインにもこだわりを持っていて、限られた空間の中でより開放的に過ごせるように壁を天井まで設けずに収納スペースを確保しました。上部に忍ばせた間接照明が空間を優しく照らす、癒しのプライベートルームに仕上がりました。HAYのダイニングテーブル、Vitraのチェア、Artekのスツール…ピカピカと輝くモールテックスの床が敷かれた空間に、Iさんがセレクトした数々の名作家具がゆとりを持って配置された空間は、まさにギャラリーと呼ぶにふさわしく仕上がりました。
自分の家=特別な場所
「あまりヴィンテージの家具には興味がなくて、コンテンポラリーな感じが好きなんです。なので新宿のコンランショップや外苑前のインテリアショップに行くことが多いですね。」と話すIさん。この部屋に置かれている家具はほとんどがリノベーション前から持っていたものだそうで、「リノベーションをして良かったなぁと思うのは、良い意味で無駄な余白ができたことですね。以前もリビングに家具を置いていたんですが、リノベーションをしてリビングが広くなったおかげで、家具を置いても開放感が感じられて居心地が良いです。それにこの部屋で過ごしてると、以前の暮らしでは味わえなかった非日常を味わえるんですよ。もちろん無垢材が敷かれた暖かみのある空間も落ち着くけれど、モールテックスが全面に敷かれたこのリビングで過ごす時間は、良い意味で“自分の家じゃないどこか違う特別な場所”で過ごしているような気分にしてくれるんです。」とIさん。どこか特別な場所に行かなくても非日常を味わせてくれるIさんのお宅は、無機質でシンプルな空間をとことん突き詰めたからこそ創り上げることができた空間なのだろうと感じました。