余白が見当たらないほどに本が詰め込まれた空間。
ヴィンテージライクなダークブラウンで構成された空間をカラフルな本と雑貨が埋め尽くす、独特の世界観漂う住まいにお邪魔しました。
下町への引越し
グラフィックデザイナーのご主人と、人形の洋服をデザインするドールデザイナーの奥様、そして白い毛にクリクリの瞳が愛らしいシーズー犬。2人と1匹が暮らす本の森は、東武東上線沿線のとある駅から少し歩いた場所にあります。以前はお二人の勤務地に近い都心の街に住んでいたM夫妻。ご主人がこれまで勤めていた会社から独立するタイミングで引っ越しを決意しました。新築・中古に縛られず様々な物件を見て回ったもののどれだけ探してもピンとくる物件は見つからず、以前本で見かけて頭に残っていたリノベを選択肢として持ち出したと言います。家から近い場所にある会社でリノベーションの説明を受けてみよう!とnuリノベーション(以下nu)の個別セミナーを予約。担当した仲介アドバイザーの印象がよかったこともあり、そのまますぐにnuで物件探しを始めました。物件に求めた条件の一つ目は、都心へのアクセスが良いことと犬が飼えること。全く馴染みがなかった今の場所は、街の雰囲気が気に入って決めたんだそう。都会的な街から、商店街が賑わう下町へ。雰囲気が全く違う二つの場所ですが、以前より暮らし心地はずっとよくなったと言います。
こだわりの本棚
デザイナーのご主人は、数千冊の本を所有しています。とにかく多い本と一緒に生活できる家を作ることが、二人のリノベのテーマになりました。部屋のドアを開けるとまず壁一面の大きな本棚に圧倒されます。大きく2面に渡って作り付けられたこちらは物件の引渡し後にご主人自ら業者に制作を依頼したもの。本の装丁を手がけるご主人のこだわりが発揮されました。奥行きにぴったり収まることで本の背がずらっと並ぶ様子は圧巻です。本棚から取った本をダイニングテーブルで読んで過ごすことが多いというご主人。すぐ横のキッチンは腰壁の高さを少し高めに設定することで、家事をする奥様とそれぞれ別のことをしていてもちょうど良い距離感で過ごすことができます。本棚やインテリアと近い色味をチョイスしたフローリングですが、こちらは斜め45度の珍しい張り方。部屋に入った瞬間に感じる非日常な空気は、一癖あるフローリングのちょっとした違和感によって演出されています。
「好き」を塗り足していく
「キッチンは全面的に妻の希望が反映されています。」そう語るご主人。キッチンにブルーのタイルを使うのは奥様がリノベを始める時から決めていたことだったんだそう。ブラウンが多くを占めるこの空間に、レトロで可愛らしい雰囲気がプラスされています。出来上がったキッチンの使い勝手はとても良く、スムーズな動線で家事を済ませられるところも気に入っていると言います。この部屋で唯一本がないのは、額に入ったアートが飾られたグリーンの壁。不規則な額の配置と森のような深い色合いが特別な世界観を醸し出しています。梁の高さにちょうどよく収まっている剥製モチーフの飾りは、以前雑貨屋で出会い引っ越したら飾ろうと決めていたものなんだそう。うさぎなのにシカの角が生えた、ちょっとコミカルな剥製。部屋全体を見守るかのように鎮座しています。
足し算の美学
梁の表面や、偶発的にできたキッチンの細長いスペースなど…。余白を埋めるように収納を作りつけ、ちょっとした隙間にもM夫妻の「好き」を詰め込みました。お二人のデザイナーというご職業がどんな風に家づくりに影響したかを伺うと、「空間の専門ではないので、自分たちがデザイナーであることが変に邪魔にならないように…。」と控えめに語ったご主人。それでもこのお部屋は、お二人だからこそ完成した空間だということが分かります。ご主人・奥様がそれぞれの「好き」を塗り重ねて完成したこの部屋には、これからも引き続き二人が愛する本やモノが加えられていきます。どれだけ時間が経ってもきっと完成することのないM夫妻の部屋は、これからどんな表情を見せるのでしょうか。