素材の陰影が映す、奥行きのあるリノベーション空間
リノベーションにおいて「素材を選ぶ」という行為は、単なる仕上げの選定ではなく空間の世界観を形づくる大切なプロセスです。
左官仕上げ特有の揺らぎや塗装ならではの質感は、暮らしの光を柔らかく受け止め、静かな陰影を生み出します。
今回は、“陰影が美しい仕上げ”をテーマに、素材が生む奥行きと、その背景にあるつくり手の思いに迫ります。
物件探しから設計・施工、インテリアまでをワンストップで手掛けるnuリノベーション(株式会社ニューユニークス)のスタッフ。
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<この記事のトピックス>
・陰影は「素材の個性」を映し出す鏡
・奥行きを生み出す職人の手仕事
・「整っていない」美学
陰影は「素材の個性」を映し出す鏡
同じ光量の光を当てたとしても、素材によって室内へ広がる光の表情は全く異なります。
まずは素材ごとにその表情をみていきましょう。
<陰影をやわらかく受け止める素材>
■シリカライム
天然石と石灰を混合させたケミカルフリーな左官材。左官特有の色ムラやわずかな凹凸が陰影を生み、光が吸い込まれていくようなやさしい印象をつくり出します。

・リノベーション事例「silence」(神奈川県川崎市)
■塗装
左官材と異なり色ムラはほぼありませんが、均一さの中に刷毛跡や艶の差が残る最も繊細な仕上げ。反射を抑えたマット塗装は奥行きのある空間を演出します。

・リノベーション事例「SIMPLE×seamless」(東京都渋谷区)
<硬質な印象の陰影をつくる素材>
■モールテックス
無機質な表情とは裏腹に、手仕事ならではの温かさも併せ持った表情豊かな左官材。職人による研ぎ出しで仕上げるため、磨き跡のゆらぎが心地よい陰影をつくり出します。

・リノベーション事例「ハレとケ」(神奈川県川崎市)
■ガラス
厚み、表面の形状によって陰影の表情が大きく変わる素材。リノベーションではフラットなガラスを用いた「テンパードア」や、キューブ状のガラスを積み上げる「ガラスブロック」など、空間を分けつつ陰影を媒介する素材として用いられます。
□テンパードアの事例
→透過性の高いガラスを用いることで、無窓空間である玄関・廊下まで自然光が届きます。

・リノベーション事例「seamless×プレーン」(埼玉県さいたま市)
□ガラスブロックの事例
→パーティションとしてガラスブロックを用い、光を取り込みつつ視線を遮ります。

・リノベーション事例「土と石」(東京都狛江市)
<経年美化の陰影を愉しむ素材>
■リブ材
木張り仕上げで使用する素材の中でも、表面が凹凸になっているリブ材は陰影の美しさが際立つ素材。自然光を受けて次第に色合いが変化し、陰影の深まりも愉しめます。

陰影を生み出す職人の手仕事
奥行きを感じる陰影を生み出す職人の手仕事とは、素材の性質を読み取り、仕上がりの全体像を思い描きながら一つひとつの工程を積み重ねていくこと。そのためには、資材への深い知見と確かな技術力が求められます。
nuリノベーション(以下、nu)では、設計デザイナー・施工管理・職人が密接に連携し、お客様の思いをカタチにしていきます。
今回はその一例として、シリカライムを用いた左官仕上げの現場をご紹介します。
・リノベーション事例「seamless×KITCHEN」(神奈川県川崎市)

淡いベージュトーンで包まれたK邸。リビングのニッチ収納を設えた一面にはシリカライムを採用しています。
「ノイズレスだけどゆらぎがある」というKさんがつくり出したいニュアンスを実現するべく、設計デザイナーとの打合せで仕上げを選定していきました。

シリカライムはモールテックスなどの左官材とも似ていますが、より自然な風合いが引き立つ、やわらかでマットな仕上がり。
ニッチの凹凸がつくり出す陰影が左官面に美しく映し出されています。
▽左官工事中の様子


左官工事は、丁寧さとスピード感の両立が求められる繊細な作業。素材の乾きや温度を瞬時に見極め、呼吸を合わせながら一気に仕上げていきます。
お客様の思いを現場へ繋ぐnuの施工管理と熟練した職人のチームワークが、滑らかで奥行きのある表情をつくり出しています。
「整っていない」美学
「美しい空間」と聞くと、整然と磨き上げられた新品のような状態を思い浮かべる人も多いかもしれません。
ですが、nuがお客様とつくり上げるのは完璧に整った空間ではなく、手仕事が生むわずかなゆらぎや陰影、そして時間とともに深まっていく暮らしの表情です。
左官の刷毛跡、微妙な濃淡、モールテックスの研ぎ出し跡──
そのどれもが、整いすぎていないからこそ光をやわらかく受け止め、 暮らしの中に“呼吸するような静けさ”をもたらしてくれます。
わずかなズレやムラこそが、日々の暮らしを自然に整え、心を落ち着かせる余白をつくってくれる。
そんな空間に惹かれる方は、ぜひ一度nuの見学会や個別セミナーへご参加いただき、写真や言葉では伝えきれない“いい時間”をぜひ体感してみてくださいね。