アッシュの色合いをベースに、スチールの黒枠、木のぬくもりを重ねていったひと繋がりの空間。
お2人の好きなものを散りばめた、2 人だけのくつろぎのラウンジです。
エレメントに魅せられて
2015年、冬。以前住んでいた賃貸アパートの更新が迫っていたK夫妻は「そろそろ家を買おうか」と、どちらからともなくマイホーム購入の話題を持ちかけた。「年齢的にも欲しいなとは考えていたのですが、何よりも後押しになったエピソードがあったんです。」と奥様。実はそのアパート全体で耐震診断を行ったところ、K夫妻の住む部屋が地震の際に一番危ないエリアだと診断されたと言う。さらに断熱材の入っていない、よく言えばビンテージ感漂うそのアパートは機密性が低く、すきま風の寒さが気になっていたんだとか。更新のタイミングが結果的に良いタイミングとなり、物件探しをスタートさせた。会社員のお二人は、元々暮らしていた高輪〜麻布十番辺りが通勤的にも便利で気に入っていたため、物件はそのエリアで探すことに。前の家の耐震診断の件もあったため、地盤が良いところというのも必須条件。「前の仕事で色々な空間づくりを手がけてきたので、家を買うならリノベーションしたいと思っていました」と話す奥様は、実は美術スタッフだったことがあり、様々な空間を見て作ってきたプロ。リノベ会社数社のHPを見て比較検討し、事例のデザインを見てnuにお願いすることに決めたのだそう。アドバイザーとの内見は、1日2〜3件、約2ヶ月を費やしてかなりの数の物件を見て回ったK夫妻。「たくさん見たのですが、正直どこも80点の印象でした。広さや間取りは良いけど暗いよね、とか。周りの雰囲気がなんだか落ち着かないよね、とか。ピンと来る物件がなかなかなくて苦労しました。」と振り返るお二人。そんな時に見つけたのが、高輪台にある築41年のマンション。実は他に候補だった物件よりも狭くて高かったにも関わらず、なぜだかここが良いと思ってしまったんだとか。マンションに入った時の吹き抜けの雰囲気や落ち着いた周辺環境も好みですぐにここに決めたという。当時の高級マンションシリーズだったこのマンションは、飾られたオブジェや照明のセレクトが個性的でありながら気持ちの良い空間を作り上げているエレメント。K夫妻は、そんな一度訪れたら忘れられないようなヴィンテージマンションをマイホームとして迎えた。
無国籍×アッシュ= 2 人だけのラウンジ
何テイストって言ったら良いのでしょう?インタビュー中にそう質問すると、「何テイストとも言えないですよね。なんと言うか…“国籍不明”な感じ?」と笑う奥様。モロッコ雑貨など、アラブ系の雰囲気が好きで集めている奥様は、実はもう少し色々と飾りたいと思っているものの、ご主人が実はそのテイストがあまり好きではないということで控えめなペンダントライトなどで我慢しているそう。それ以外の趣味はほとんど同じだというK夫妻は、設計の打ち合わせの際にもスムーズにイメージを伝えて進めていった。K邸で注目すべき箇所は、何と言ってもダイニングとリビングの床材の違いである。「2人で暮らすので、1部屋で良いと思っていたくらいなんです。」と話すご主人の要望はそのまま叶えられ、空間を一続きにする代わりに、床材に変化をつけて空間を緩やかに分けるというアイディアが採用された。画像検索サイト「Pinterest」にて様々なフローリングを検索していた奥様がチョイスしたのは、リビングは朝鮮張りという張り方。名前の通り、朝鮮半島の古民家などでよく見られた張り方の一つで、同じ長さに揃えた木材を整然と張っていくのが特徴。一般的に見られる乱尺張りと比べるとその差は一目瞭然で、静かで気品ある印象に仕上がる。ただ、そこを普通で終わらせないのがK夫妻だ。使用した木材は、アッシュ加工されたオーク材。アッシュの色味にこだわり、デザイナーから提案されたこのオークのフローリングに行き着いたという。「アッシュという色味にはこだわりました。私たちの好きなインテリアの雰囲気にも合うし、モルタルの色味にもあるようなこの曖昧な色が好きなんです。」とお二人。そんなお二人にご提案したのは「Ash Lounge」というコンセプト。一続きになった空間はアッシュの色合いで統一し、ラウンジのように寛げる空間になるようにとの意味合いをもたせた。ダイニングテーブルの隣に位置するキッチンもアッシュ色の王道、モルタル仕上げにこだわった。内側は様々なメーカーのショールームを見て回って決めたというクリナップのキッチン。外側をモルタルの腰壁で覆ったオリジナル。このキッチンの存在感は、2人のAshLoungeでは一役買っている。さて、一続きのもう一方の空間、リビングは一見するとヘリンボーンに張られたフローリングに見える。複雑に組まれたヘリンボーンは、何種類かの木材を組み合わせているのだと眺めていると「実はこれタイルなんです。」と奥様。こちらもデザイナーからの提案があり、良さそうだと感じすぐに採用したんだとか。リビング一面にタイルを張り込むというのは良いと思ってもなかなか実行に移せない人が多いのではと感じたが、さすがはこれまで様々な空間を手がけてきた奥様。迷いは全くなかったんだとか。「タイルの床、すごく快適ですよ。冬場は絨毯を敷いていましたけど、夏はこのままの方が涼しくて良いかも」と撮影中に模様替え。こちらもアッシュな色味がベースのタイルなので、自然とリノベーションの空間に馴染む。そしてもう1箇所、特にこだわったのはスチールの開き戸を造作した寝室。スチールの扉も絶対に取り入れたかったポイントだというご主人が、何があっても最後まで守り抜いたという。「普段は開けておいて、来客の際には閉めておくんです。ガラス扉なので向こう側は見えますが、仕切りがあるのとないのでは違いますね。」と言う通り、こちらも緩やかな間仕切りとして活躍しているそう。寝室の横には、寝室とほぼ同じ3畳ほどのスペースを割いたウォークインクローゼットを設けた。「この家の中で、割合的には一番大きなスペースを割いたんじゃないかな。」とご主人が語るそのスペースは、寝室からもリビングからもアクセス可能。寝室と同じスチールの黒枠窓をはめ込んだ一枚壁を隔てた向こう側には、2人分の洋服、アウトドア用品、季節ものなどがぎゅっとまとめられている。すりガラス越しにしまったものが見えるのも、なんだか“2人の家”感があって好印象だと感じた。約4ヶ月の打ち合わせ期間を経て完成した、一続きの空間。中に置いた家具はどれもお2人で選んだお気に入り。家具の細部を見ても、エイジング加工がされていたり、使用されているファブリックもアラブ系の模様であったり、とことん“無国籍”感とアッシュの色味が好きで自然と集まってくるのだと感じた。
物件への愛着もリノベーション
引っ越しの際、所有していた車を手放したというK夫妻。そのためもあって、リノベーション後は2人で散歩をすることが格段に増えたそう。「渋谷から1時間ほどかけて歩いて帰ってきたりします。散歩が趣味になりましたね。まだまだ周辺を開拓しきれていないので、これから更に街歩きを楽しみたいんです。」とお2人。ご主人は、マイホームを手にいれて、我が家に帰ってきたと感じる瞬間に幸せを感じるんだとか。「エントランスから中庭に抜ける雰囲気が好きなんですよ。」と嬉しそう。リノベーションして手に入れた空間はもちろんだけれど、やっぱり一生懸命に選んだ物件そのものにも愛着って湧くのだなーと感じた一言であった。作りつけた棚の上に、気になる木の額。こちらも休日に出かけたインドの絵本の出版トークショーにて、先日購入したというもの。インドの絵本とコラボレーションしたというその額は、ずっと前からK邸にあったかのようにその空間に馴染んでいた。こうやって色んな国の、2人のフィルターによって選び抜かれたものたちが増え、より2人らしい空間が育っていく。
2人のアッシュラウンジは、これから時間をかけて磨きがかかっていくに違いない。