パリの街に建つアパルトマンの一室のようなシックなお宅。丁寧なこだわりを、時間を掛けてゆっくりと落とし込んだ上品な空間に暮らす、Oさんを訪ねました。
ときめくヴィンテージ
お洒落なイメージと昭和レトロな風情が漂う街、三軒茶屋。駅からバスで10分ほどの閑静な住宅街に佇むヴィンテージマンションがOさんのお宅です。4年間の海外勤務を経てNYから帰国後、1年半ほど上北沢の賃貸マンションにひとりで暮らしていたOさん。元々、帰国したら家を購入したいと考えてはいたものの、国内外問わず転勤が多いという理由からタイミングを見計らっていたといいます。しかし、休日に恵比寿近辺を歩いていた際、偶然nuリノベーション(以下、nu)のオフィスの前を通りかかり、外に掲示されていたリノベ 事例が目に留まったのだとか。「画一的な新築マンションにはあまり魅力を感じられなかったので、家を買うなら自分好みの空間が創れるリノベーションがいいなと思っていて。海外では古い建物をリノベーションすることが当たり前なので、リノベするという選択肢が自然と私の中にもありました」と話すOさん。後日nuのHPを確認し施工例のデザイン性も気に入ったので、詳しい話を聞くために個別セミナーへ参加。nuで物件探しから依頼する事を決め、それから約半年後に三軒茶屋にある今のお住まいを購入しました。「転勤の可能性を考慮して、賃貸に出しやすい駅近で、かつゆとりを持って暮らせる70平米前後の物件を条件に調べました。ここは駅から徒歩20分弱なので候補に入れていなかったのですが、実際に内見してみたら駅からの距離とか、部屋が北向きだとか、そういうことが払拭されるくらい建物自体のデザインが気に入ってしまったんです」とにっこり笑います。実はここ、有名建築家が手掛けたデザイナーズマンションで、内部のシンボルツリーを囲む中庭が目を惹く美しい設計。Oさんが魅了されたというのも頷けます。建物ももちろんですが、三軒茶屋の街並みは商店街や古くからある飲食店など生活感に溢れていて、人の温もりが常に感じられる雰囲気がとても気に入っていると話してくださいました。
アッシュ色を纏って
「この部屋は北面で、十分な採光が取れるか不安だったんです。なので、白を基調とした明るい空間にしたいというのがマストな要望。あと、タイルや木、アイアンなど様々な素材をさりげなく取り入れて、質感を楽しむのも素敵だなと考えていました」と、Oさんは当時を振り返ります。O邸のベースカラーである白色。その色が放つ様々なイメージの中でOさんが求めたのは、メンズライクでも、ガーリーでもない中性的なテイスト。決して甘すぎる白色にならないよう要所に黒を取り入れ、落ち着いた大人の女性の雰囲気をイメージしました。そんなOさんと設計デザイナーが二人三脚で創り上げたのは、パリのアパルトマンのような白を基調とした空間です。ブラックフレームの扉の先に広がるリビングは、床の一部を横断する斜めラインを起点に、縦と横で床材の張り方に違いをもたらせました。実はこれ、設計デザイナーからの提案で、「個性があって、すごく気に入っています」とにっこり笑うOさん。空間に溶け込んだアッシュ色の無垢フローリングにさりげなく刻まれた斜めラインのアクセント。決して悪目立ちしない、その気品のある主張は洗練された雰囲気を引き立てます。壁付けしたTVのサイドに配置されたシェルフはNY時代から使っているものだそうで、お気に入りの CDや洋書がぎゅっと詰まったストレージ。「特にクラシック音楽が大好きなんです!読書や友人とご飯を食べながら、好きな音楽を流して過ごす時間はとてもリラックスできます」とOさん。今回の引越しで仕方なく手放したNY時代の家具もあるそうですが、リビングのインテリアは現地から持参したローテーブルやラグ、そして新しく迎え入れたソファなど新旧の想いを混在させたコーディネート。ソファの隣には鮮やかなグリーンを飾り、窓からの風が気持ち良い寛ぎの場が構築されています。
デザイン打合せの最中、空間のテイストに次いでOさんが注力したのはキッチンのこと。料理をすることが大好きで、料理の際にはソースまで作るという本格派。友人を招いて一緒に食事をすることも多いので、キッチンの優先順位は高かったといいます。マストで叶えたかったという壁の白タイルは、「見た目で質感が嗜める種類が良くて、見る角度によってキラキラと輝くタイルを選びました。凹凸で光の反射が楽しめるんですよ!色々な種類を吟味しましたが、実際の面積に施工したらどんな雰囲気になるんだろう?と考えながら選ぶのは、ちょっぴり難しかったですね(笑)」。キッチン本体はというと、作業効率の良いセパレート型を選択。リビングの床と合わせたアッシュ色で、DK全体を落ち着きのあるニュアンスカラーで纏めました。「広い作業スペースが欲しかったので、セパレート型がベストでした。コンロ側は対面式なので、料理をしながらゲストと会話が楽しめて嬉しいです!」とOさん。コンロ側のキッチンには天板と一続きになったダイニングテーブルを造作。天板には大理石を採用し、清潔感のある印象に仕立てました。多い時で一度に10人くらいの来客があったそうですが、そんな時はソファまで食事の席を広げて賑やかに過ごすのだそう。「私も友人たちもお酒が好きなので、アラカルトでつまめる料理を並べてビストロっぽいかんじを楽しんでいます。ワインを片手に、気の知れた仲間と話に花を咲かせて…この家で過ごす至福の時間ですね」。
辿り着いた、愛らしい家
休日は趣味の美術鑑賞や食事に出掛けたりと外出することの方が多かったそうですが、リノベを機に“自分だけの空間”ができたことで、家で過ごす時間が長くなったと話します。「賃貸暮らしでは、100%自分の理想を反映させた空間には出会えないので、リノベして良かったです。頭の中で思い描いていた理想が実際にカタチになった喜びは本当に大きくて、完成したこの家に足を踏み入れた時の高揚感は忘れられないですね」と穏やかな口調で話すOさん。遊びに来た友人たちも口を揃えて素敵な空間だと褒めてくれるそうで、実際にリノベに興味を示してくれた友人夫婦がいたことも教えてくださいました。海外雑誌の一コマを切り取ったようなO邸。気品に溢れたシックな空間だけど、気取らずに過ごすことのできる大らかな空気感が漂っていました。