
新たに始まった暮らしを、「空気のように自然に溶け込んでいった感覚」と表現するHさん。洗練されているのに自然体。そんな暮らしづくりの原点とは?

リノベを“ジャケ買い”
澄み渡った空気感に満たされた、凹凸のないシームレスな空間。ここは、Hさん夫妻と6歳の長女、3歳の長男が暮らすマンションの一室です。
お子さんが大きくなってきたタイミングで持ち家を検討し始めたHさん。当時住んでいたエリア周辺で物件探しをスタートしたものの、ファミリー向けの物件がなかなか出てこず、かなり苦戦したのだそう。
「約2年、ポータルサイトに張り付いて探していましたが、広さのある物件って本当になくて。新築が建ったタイミングで問合せもしたけど、倍率15倍…。いやいや、無理じゃん!って(笑)。だから、この物件が出たときは飛びつくように内見に行きました」。広さも申し分なく、正方形に近い間取りにも魅力を感じたHさん。内見後、すぐに購入を決断しました。
一方で、この物件に辿り着くまでには「条件は微妙だけど、もうここでいいかも…」と思ってしまった瞬間もあったと振り返ります。
「修繕費の面で懸念があったんですが、『もう、ここでいいんじゃない?』って。でも結局、先に申し込みが入ってしまい、購入には至らなくて。その後この物件に出合えたので結果的によかったですが、当時は選択肢の少なさや焦りもあって…」。
物件探しをご自身で行っていたHさんの言葉からは、中古マンション市場のスピード感、そして購入という決断の難しさが伝わってきます。
そんな長い物件探しの期間中も、様々な選択肢を見据えていたHさん。「築浅ならそのまま住む、築古ならリノベーション」と、初期段階からリノベーションも視野に入れていたといいます。
「購入した物件は築23年だったので、リフォーム済みのお風呂やトイレは既存設備を活かしつつ、全体的にリノベーションすることにしました。物件が決まって急いでいたし、主人はデザイン重視。であれば、『あなたが気に入ったデザインの会社に絞って連絡してみたら?』と伝えてみたんです」。そんな奥様の言葉に背中を押され、SNSなどで雰囲気がいいと感じていた3社に絞り込んだというご主人。その中からnuリノベーション(以下、nu)を選んだ理由は、担当アドバイザーの信頼感だったと、迷いなく語ります。
「営業トークじゃなくて、いい意味で淡々と説明してくれたり、自分の考えもしっかり伝えてくれたり。なんていうか、人柄で“ジャケ買い”したような感覚でした(笑)」。
「アドバイザーさん自身も元々設計の経験があると知って、本当に家づくりが好きな方なんだろうな、というのが伝わってきました」と、奥様も続けます。
問合せ前からnuのホームページを細かく読み込んでいたというHさん。施工事例やコンテンツから受け取った安心感も、決め手のひとつになったそうです。

凹凸レスへの思い
初回プレゼンに向けて、Hさんが担当デザイナーへ真っ先に伝えたのは、「とにかく凹凸のない、シームレスな空間にしたい」ということ。そこには、ご夫婦の暮らしに対する絶対的な価値観が投影されています。
「私たち、モノに対してはミニマリストではないんですが、生活にかかる手間はとにかく断捨離したいんです。ご飯を食べて、お風呂に入って、眠るー。生活を送る上で絶対に譲れないものがあるからこそ、掃除や片付けは家づくりの段階から徹底的に効率化した家にしたかったんです」とご主人。
その思いを受けてデザイナーが提案したのは、ユーティリティや個室を外周壁沿いにL字にまとめ、廊下をなくして最大限に広さを確保するプラン。2.3畳のパントリーをはじめ、玄関や洗面室内にもたっぷりと収納を確保しました。また、造作で設えたキッチンにはフロントオープン式の食洗機を完備。収納動線や設備面を徹底的に効率化しつつ、シームレスなデザインで包み込むことで生活感を感じさせない工夫を散りばめました。
ひとつだけ動かせなかったのは、構造上レイアウトを変えられないトイレ。そのため、このプランでは玄関横に塔のように独立するトイレが生まれました。
「家の中心にトイレが独立って、なかなかないでしょ?(笑)。でも、夫婦揃って『このプランでいきます!』って。せっかくなら人と違う家にしたかったし、暮らしてみると全然気にならないですよ」。その言葉からは、家に対する自由な感性が伝わってきます。
メインの床は磁器質タイルでオールフラットに。壁と扉の境界も極力フラットにしたいなど、家の中の凹凸要素は徹底的に排除したいとリクエストしました。
“枠なしの扉”というと、近年目にする機会も増えてきましたが、H邸では内開きの建具に対してオールフラットの納まりを希望。実は外開きよりも難易度が高い仕様でしたが、デザイナーや施工担当、職人が思考錯誤を重ねることで、Hさんの理想とする納まりを実現しました。

シームレスで効率的であることを徹底的に追求したH邸の中で、唯一、効率性を度外視して取り入れたもの。それは、全長4.5mの造作アイランドキッチン+ダイニングテーブルです。
デザインのルーツは、以前ご主人が訪れた某有名クリエイティブディレクターがディレクションしたオフィス。ロングスパンのミーティングテーブルが据えられた圧巻の雰囲気が、頭の中にずっと残っていたのだそう。
「周りを行き来するには長すぎるスパンだけど、それくらいインパクトのある塊にしたいなと思っていました。“使い勝手の悪い長さ”が、逆にかっこいいなって」。
お子さんとの追いかけっこが始まると、このキッチン+ダイニングの周りをぐるぐると走り回られてしまい「永遠に捕まえられない」と、苦笑いのお二人。笑顔の溢れる日常の風景が目に浮かびます。
天板には手入れがしやすい人工大理石を採用。ダイニングの脚は床面の清掃性を考え、できる限り本数を減らしたいとリクエストしたそうです。本来はキッチン側にもう1本脚が必要なところを、天板とキッチンの接合部に工夫を加えることで、大判のダイニング天板を脚1本で支えるデザインを実現しました。
Hさんの暮らしへの強い思いとnuのデザインが共鳴し、つくり上げられたこの空間。洗練されたデザインとは裏腹に、暮らしの温度がしっかりと伝わってくるH邸の心地よさは、目に見えない細部へのこだわりが鍵になっていたのだと、あらためて感じさせられます。

待ち焦がれる楽しみ
Hさんにとってのリノベーション後の大きな変化のひとつは、家具に対する情熱。
インテリアが映えるシンプルな設えだからこそ、この家で暮らし始めてから、どんどんその世界に引き込まれているのだそう。
「リビングのラウンジチェアは、フリッツ・ハンセンの<PK4>です。ソファにする案もありましたが、引越し当初の何もなくて余白がたっぷりある感じを維持したいね、と夫婦で話し合って。今はこの形に落ち着いています」。
リビングではテレビを見たり読書をしたり、思い思いの時間を過ごしているそうで、「“このチェアに腰掛けて、読書をしている自分が好き”。そんな気持ちにさせてくれる空間です(笑)」と、奥様もとても幸せそう。
このラウンジチェアも、ダイニングのセブンチェアも、注文から約半年待ってようやく揃ってきたと嬉しそうに目を細めるお二人。さらに、今はリビングの壁沿いに置くラウンジチェア<SERIES3300>の到着を、今か今かと待ち焦がれているのだそう。
「注文したのがGWあたりだったから、あと2ヶ月くらいかなぁ。好きな空間で暮らしていると、アートも飾ってみたいとか、この家具も欲しいなとか、色々と興味が湧いてきちゃいます。モノが増えると、清掃性や効率性をとことん重視していた当初のテーマから少しずつブレていってしまうので、そのバランスが最近の悩みです(笑)」と、ご主人。
清掃性や効率性を追求しつつ、お二人の美的感覚で細部をつくり込んでいった今回のリノベーション。隅々まで不満や違和感がないからこそ、新しいこの家での暮らしも、自然と生活に溶け込んでいったといいます。
「子供ファーストな家にするつもりも、『家族が〇〇な暮らしをできるように』とコンセプトを決めるつもりもなかったんです。暮らしに対して、何かを目指して頑張る必要もないし、かといって不自由もしていない。今が自然体で、とてもちょうどいいです」。
掃除や片付けにかかる時間を断捨離できた分、以前に増して家族の時間を大切にできているというHさん一家。
手間を手放し、心地よさを選び続けるHさん一家の“いい時間”は、これからもこの場所で、自然に、穏やかに流れていきます。
