
タイル、木、ガラスなどの異素材に、白、赤褐色、エメラルドグリーン、アイボリーなど多様な色味が重なる空間。表情豊かな空間には、夫婦と愛犬の愉しい毎日が流れていました。

しっくりくる選択
大きな公園がある渋谷区の人気エリア。この地に建つヴィテージマンションをリノベーションしたのは、Sさんご夫婦と愛犬のしらたまちゃんです。
結婚を機に、一緒に暮らす家を探し始めたご夫婦。6年ほど前から中古リノベーションの存在を知っており、近年はインスタグラムでリノベーション事例を見ていたと言います。
「もともとデザインが好きだったので、楽しそうだなって。実は、リノベーション済みのマンションも何軒か見たんですが、やっぱり自分たちの好きなようにつくりたいと思いました」と、奥様。
一方ご主人も、奥様と出会う前から中古物件に魅力を感じていたそうです。
「新築は価格の割に狭いし、立地も限られていて。その点、中古なら希望エリアで広さも確保できるので、建物自体は多少古くても中古の方がいいなと思っていました」。
インターネットの物件検索サイトを使ってご自身で候補を探し、そのうち5軒を内見。最終的に選んだのは、この築43年・76.97㎡の物件でした。
奥様の長年の相棒であるしらたまちゃんと一緒に暮らせることに加え、駅から近く、資産価値的にも優良だったことが決め手に。さらに、約40㎡の広々バルコニーと、大きな窓からたっぷり光が入ることも魅力的でした。
リノベーション会社は、nuリノベーション(以下nu)を含む2社と、個人で活動するデザイナーを比較検討。最終的にnuを選んだのは、担当アドバイザーの対応が決め手だったと言います。
「私たちはコミュニケーションの取りやすさを重視していたんですが、nuのアドバイザーさんはやり取りのスピードも早く、親身になって話を聞いてくれたのが良かったです。人柄や雰囲気も含めて、この人たちとなら安心して家づくりを進められそうだなって」と、ご主人。そんな信頼感が、家づくりのスタートを後押ししました。

色と素材の調律
Sさんが描いたのは、好きなものに囲まれながら、家の中のどこを見ても気分が上がる暮らし。そして、バルコニーでしらたまちゃんと走り回ったり、趣味のゴルフの練習をしたり、ビールを飲んだりする日常でした。
そこで設計デザイナーは、光や風が行き交うリラクシーな空間をイメージ。間取りは2LDK+WIC+土間で、ご主人のリクエストから収納量を重視しました。奥様の希望で、内装の基調色はブルーに。木とタイルをバランスよく配しながら、シンプルすぎず、かつ色数が多くない空間を目指しました。ラフさの中に凛とした美しさが漂う、その空気感を“ambience”というコンセプトに込めています。
19.7畳のLDKは、床はアイボリーのタイル、天井と壁は白の塗装で、明るさを保ちながらも落ち着いた印象に。窓辺にはアイボリーのタイルを張った広々ベンチを造作し、ベンチ上部の天井は木にして、タイルとのコントラストを演出しました。タイルのひんやりした質感は、しらたまちゃんのクールスポットとしても活躍。隣接するバルコニーへ流れるように行き来できるよう、ベンチと掃き出し窓の床レベルも合わせました。
ワークスペースは、2人のデスクを並べて置けるミニマムの4.9畳で設計し、本棚も造作。寝室はクイーンベッドを置ける6.4畳で北側に設計し、隣接させたWICに衣類・奥様の趣味の楽器・季節家電まで収まるようにしました。WICの他にも、玄関、廊下、キッチン横などに構造上生まれる余白も造作収納として活用。玄関土間の壁はガラスブロックを採用し、LDKの光が入るようにしました。

特にこだわったのは、造作キッチンと造作カウンター。キッチンは空間を広く使える壁付けにして、天板は白の人造大理石、面材は木、前面の壁はライトブルーの磁器質タイルで、ここでも素材のコントラストを演出しました。タイルの選定では、デザイナーが「この世の水色のタイルを全部集めたんじゃないか、と思うくらい(笑)」と話すように、水色、ブルー、エメラルドグリーンなど約50種類のサンプルを取り寄せ、ご夫婦が家で光の当たり方を確認しながら比較検討したそうです。
また、ご夫婦の「Rをどこかに取り入れたいが、開口アーチではないかたちで」との希望から、カウンターの天板の両端をR、脚を円柱にして、オブジェのような印象に。脚はミルキーブルーに塗装して、軽やかな印象に仕上げました。
天板には、nuスタッフの提案でビールストーンを採用。ビールストーンは、天然石やガラスなどの骨材をモルタルで包み込む左官塗材ですが、納得いく石が左官屋さんになかったため、わざわざ中国から取り寄せたと言います。
「結果的に、家の中にある色を全て閉じ込めたような、絶妙な色味に仕上がりました。とても気に入っています」と、奥様。廊下に設けた来客用のコンパクトな洗面台の天板にも、同じビールストーンを採用し、空間全体に連続性を持たせました。こうして、素材一つひとつを選び抜いた、隅々まで上質な住まいが完成しました。

価値観を重ね合う
この家に住んで約6カ月。「色のバランスや組み合わせにこだわったおかげで、家の中のどこを見ても『かわいいな、素敵だな』と思うし、見る角度によって色んな素材が目に入ってくるのが楽しいですね」と、奥様。また、しらたまちゃんとの時間も大きく変わり、一緒に家の中を走り回って遊べるのが楽しいのだとか。
「カウンターの周りをぐるぐる走ったりして、しらたまもすごく楽しそう。最近は散歩に行こうと言っても、『家で遊ぼう』とボールを持ってくるくらい(笑)」と、ご主人。念願のバルコニーライフも充実していて、家族全員のお気に入りの居場所になっているようです。
朝は散歩で近隣の大きな公園へ出かけ、カフェで朝食を買ってきて自宅で楽しむ…。朝の過ごし方も変わり、心に余裕を感じられるようになったという奥様。抜け感があって気持ちがいいので、リモートワークの日はリビングで仕事することも多いそうです。
また、夜も家で過ごすことが増え、ダイニングで食事をしたあとベンチへ移動して、お酒を飲みながらゆっくり過ごしているのだとか。
「以前は別々に暮らしていたので、一緒にいる時間そのものが増えましたし、リビングが本当に心地いいので、自然と会話も増えました。夫婦の絆も深まったし、家族としての団結力も強くなったかな(笑)。自分たちでつくった家だからこそ、大事に住もうと思えています」と、ご主人ははにかみます。
奥様が賃貸時代から使っている<カルテル>のダイニングテーブル、グリーンのパントンチェア、新たに購入したギリシャのブランド<Sarlas(サーラス)>のカーテンも、すっかりこの空間に溶け込んでいます。
最後に、今回のリノベーションの総括を伺うと…。
「設計打合せを通して、私たちがお互いに何を大切にしているのか、どんなデザインが好きなのかを改めて知ることができました。どちらかが我慢するのではなく、二人とも納得できる答えを探していく時間が本当に楽しかったです。今後は、家具を買い替えるのも楽しみですね」。
住まいづくりを通して、お互いの価値観をより深く知ることができたというSさんご夫妻。これからも暮らしの変化に寄り添いながら、この家ならではの風景を育んでいくことでしょう。

Interview & text 安藤小百合